SDGsには17の大きな目標があり、それぞれに平均10個ずつくらい同じようなターゲットが存在し、合計で169個あるので169のターゲットと言われています。
今回は、「ロシアがウクライナに軍事侵攻」のニュースが日々報じられている中、軍事侵攻がSDGsのゴールをいかに後退させるかということについてネットニュースを中心に紹介します。
ロシアがSDGsで破っていること
SDGsのゴール、17のうち、16番目は「平和と公正をすべての人に」だ。
持続可能な開発のために、平和で包括的な社会を促進し、すべての人に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルで、効果的で説明責任を果たす、包括的な制度を構築する。
17のゴールの下には169のターゲットが設定されている。16番のゴールのターゲット1(16.1)は次の通り。
「あらゆる場所での暴力を減らす」あらゆる場所において、すべての形態の暴力、および、暴力に関連する死亡率を大幅に減少させる(SDGsターゲットファインダーによる翻訳)
今回の、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、このSDGs16で約束した内容に反することです。
ただし国連総会で3月2日、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて緊急特別会合を開催し、ロシアに対して軍事行動の即時停止を求める決議案を141カ国の圧倒的賛成多数で採択されても軍事侵攻が停まらない現状は紛争に対して国連の無力さを感じます。
食料は十分なのに飢餓が起こる理由
SDGsの目標1「貧 困 を な く そ う」を目指しています。
日本語訳では「貧困をなくそう」ですが、英語の原文では「貧困を終わらせる」(End poverty)と書いており、より強い表現です。
貧困人口は、徐々に減ってきていましたが、コロナ感染拡大で、数十年ぶりに増えてしまっています。
国連広報センター所長の根本かおるさんは、2022年2月16日付の朝日新聞の記事で、
「2020年には億単位の人が新たに極度の貧困に陥り、貧困人口が数十年ぶりに増えてしまいました。数十年間にわたる貧困撲滅のための努力が、帳消しになった」
と語っています。
貧困が増えれば、当然、飢餓も増えていきます。
地球上に、統計では78億人分の食料は十分ありますが、貧困でお金がなければ食料を入手することが出来なくなります。
SDGsの2番の目標「飢餓をゼロに」(飢餓を終わらせる)も到達が遠のいてしまいます。
コロナ禍で、貧困や飢餓の撲滅が遠のいている今ロシアによる軍事侵攻は、そこに輪をかけて、社会の平穏を失わせ多くの難民が一時的に増え、SDGD目標を後退させしまします。
ウクライナ国内では食品事業者の営業がストップし、食料を消費するはずの消費者(国民)は、すでに100万人以上が隣国であるポーランドやルーマニアなどに退避していると報じられています。
EUの執行機関・欧州委員会は、2月27日、ウクライナからEUに逃れる避難民は、人口の約15%に相当する700万人まで増える恐れがあるとの推計を示しています。(2022年2月28日付、読売新聞)
ロシアのウクライナ侵攻は、世界のエネルギー市場を不安定にしていますが、世界の食料に影響を及ぼす可能性があると指摘する報道もあります。
ロシアは世界4位、ウクライナも世界9位の穀物生産国です。
特にロシアとウクライナの小麦輸出は世界全体の約3割を占めています。
両国からの輸出が滞れば、世界的な供給不足になって小麦の相場は爆騰します。
日本の主な小麦の輸入先はアメリカ、カナダ、オーストラリアですが、世界的な小麦価格の上昇による影響は避けられません。
急激な値上がりが始まっている小麦粉を原料とするパンやパスタなどの値段は、さらに上昇することが確実で貧困層の飢餓が更に懸念されます。
国連世界食糧計画(WFP)の上級広報官であるスティーブ・タラヴェラ(Steve Taravella)氏は、
「世界が維持できない時期に、またひとつ紛争が表面化した」
「世界的に飢餓率は著しく上昇しており、飢餓の最大の要因のひとつは人為的な紛争です」
と述べています。
国連のWFP=世界食糧計画はウクライナや周辺国の避難所などへの食料支援を強化するため、ポーランド南部の都市に臨時の事務所を設けて対応にあたっています。
UNHCR=国連難民高等弁務官事務所のまとめによりますと、ロシアによる軍事侵攻を受けてウクライナから国外に避難した人の数は11日時点で259万人を超えました。
NHK ニュース
また、ウクライナ国内ではロシア軍の攻撃で多くの人たちが住む場所を奪われ、各地で食料や飲み水が不足する事態となっています。
こうした中、国連のWFPはウクライナや周辺国の避難所などへの食料支援を強化するため、ポーランド南部の都市クラクフに臨時の事務所を設けて対応にあたっています。
今回の危機対応にあたっているWFPのヤコブ・ケルン氏は12日、NHKの取材に対して「ロシア軍によって包囲されているキエフやマリウポリ、それにハリコフなどに重点的に食料を届ける計画です」と今回の活動について説明しました。
そのうえで今回の活動の難しさについて「食料自体はウクライナ国内にあるが、トラックの運転手などが少なくなるなどサプライチェーンの問題で必要とされているところに届けられていない。食料へのアクセスができなくなり、人々はどんどん疲弊している」と述べ、配送手段の確保などに特に力を入れていることを強調しました。
また、現金などを十分に持たずに避難したために食料が購入できないという人向けに、食料引換券を活用することも計画しているということです。
欧州、発電排出4%拡大
4月21日の日経新聞の記事によるとロシアによるウクライナ侵攻で、温暖化ガス排出を実質的になくす「カーボンゼロ」が乱気流に見舞われています。
天然ガスや石油の供給不安からエネルギー安全保障の意識が一気に高まり、化石燃料の増産が広がる。
カーボンゼロの試練を危機が映し出した。
2月24日の侵攻後、欧州で石炭火力の発電が増えている。
エナジーモニターによると、侵攻前後の1カ月ずつの比較で欧州連合(EU)の発電に占める石炭火力の比率は侵攻前の10%から侵攻後は13%に上昇した。
なかでもドイツは25%から37%に急上昇した。
ガス火力の比率は2ポイントしか上昇していない。ガスの高騰と供給不安で、安くて自国で賄える石炭への回帰が起きる。
石炭火力は運転中の二酸化炭素(CO2)排出がガス火力の約2倍ある。
日本経済新聞の試算では、侵攻後の石炭比率上昇によりEUの発電からのCO2排出は4%増える。
EUは2030年の排出量を1990年比で少なくとも55%削減する方針で、毎年減らさなければ達成は難しい。
侵攻以前、欧州は石炭の利用を減らし、脱炭素のつなぎ役としてロシア産のガスを増やした。
EU全体で消費量の4割をロシアに頼る。
侵攻により脱炭素社会への移行戦略の危うさが露呈した。
国際エネルギー機関(IEA)によるとガス代金としてロシアはEUから1日4億ドル(約510億円)超を受け取る。
石油では同7億ドルが世界からロシアに流れる。
ウクライナの気候学者スビトラーナ・クラコフスカ氏は「気候変動と今回の戦争の根っこにいずれも化石燃料がある」と英紙ガーディアンに話した。
ロシアの戦費を絶つためにも化石燃料の脱ロシアが急務となり、各国で増産や開発が相次ぐ。
「我々は戦時体制にある。原油や天然ガスの供給を増やす必要がある」。
グランホルム米エネルギー長官は3月に呼びかけた。米国のシェールオイル生産は12月には侵攻前より日量100万バレル以上増える見通しだ。
15年12月に温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」に合意すると、翌16年1月に北海ブレント原油先物は1バレル27ドルまで下落した。
ロシアの国内総生産(GDP、ドル建て)は16年、ピークの13年から4割も減り、21年のGDPも13年をなお3割下回る。
英ウッドマッケンジーは21年、脱炭素へ向かえば北海ブレントは50年には1バレル10~18ドルまで下落すると分析した。ロシアの侵攻は閉塞感を打ち破ろうとした暴挙だった可能性がある。
国際再生可能エネルギー機関の試算では、脱炭素へ向かえば、50年の世界のGDPは脱炭素しない場合より2.4%増える。
エネルギー転換の巨額投資が押し上げるためだが、影響は地域により異なる。
EUは7.4%増える一方、ロシアなど「EU以外の欧州」は1.6%増にとどまり「中東・北アフリカ」は逆に2.5%減る。
脱炭素で産油国の力が衰えれば各国が支援する武装組織に歯止めが利きづらくなりかねない。
米国はシェール革命で原油の輸入国から輸出国に転じ、アフガニスタンから軍を撤収。
米大統領が中東の和平に深く関与した時代は終わった。
一方、西側諸国がロシア産原油の禁輸に動くなか、サウジやUAEは米欧から請われても原油を増産しない。
米欧と産油国のドライな関係は世界の原油相場を揺さぶる。
脱炭素を進める中で産油国をいかに軟着陸させるかは世界の安定を左右する。
カーボンゼロのようなエネルギー転換は富の巨大な移転を起こす。
既存の世界秩序を揺さぶり、あちこちにひずみを生む。今回の危機はそんな現実を我々に突きつけ、覚悟と行動を迫る。
4月20日 日経記事 抜粋
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