紹介本 『時代の風音』

時代の風音 / 堀田 善衛 , 司馬 遼太郎 , 宮崎 駿  

この お勧め本紹介を通じて本を読むことの楽しさや色々な価値観を知り、成長に繋がることを紹介したいと思っています。

この本は以前紹介した『戦略的読書日記』の中で著者の楠木 建さんが知識の深さに驚嘆されており、30年前の本を取り寄せて読んだ次第です。

この本は、日本が生んだ稀有な才能である宮崎駿、堀田善衛、司馬遼太郎という博学な作家3人を交えた鼎談集です。

本書でも述べてありますが、尊敬する堀田善衞と司馬遼太郎の話を聞きたいという宮崎駿さんが企画し、実現した鼎談で、宮崎駿さんは一人の“書生”という立場から対談を進行する役目を主に務めています。

堀田善衛、司馬遼太郎という博学司の両氏が対談の発言が中心を占めています。

【目次】

1.二十一世紀とは
「書生」として
難治の国・ロシア
二十一世紀の迷惑
「ユニーク」な国々
武器のありよう
電波の力
「時代の空気」はつかみ難い

2.国家はどこへ行く
ステートとネーション
ヨーロッパ人の国意識
EC統治はレジョナリズムを強める
北方四島の問題
乗り物の文化

3.イスラムの姿
イスラムの根っこ
ぜいたくを知った文化
バスク人、ザビエル神父
請負制とサラリー制の差

4.アニメーションの世界
混迷するアニメーション
闇のすばらしさを宮崎作品で

5.宗教の幹
「正統派」と「抗議派」
一神論と汎神論の世界
なぜ日本人はガウディが好きか
国陋な協会
日本にはモラルがない

6.日本人のありよう
「名こそ惜しけれ」の生きかた
ザビエルがほめた徳目
日本の中の国際化
それぞれの八月十五日
日本が大人になる時

7.食べ物の文化
陸がやせると海もやせる
ジャガイモがヨーロッパを救った
雑食の遺伝
うまさは国力から

8.地球人への処方箋

弥生文明で消えた照葉樹
木を切って滅びた文明
オランダに学べ
二〇〇一年一月一日への世界会議

目次からも分かる様にテーマの幅が広く、司馬さんと堀田さんの知識量に驚かされます。

30年も前の本ですが現在のウクライナ情勢につながるソ連・ヨーロッパの歴史観や民族のことなど分かりやすく説明されおり、日本人があまり知らないオスマン帝国の事など興味深く読めます。

鼎談方式なのであまり内容を紹介しにくいですが印象的な表現やわざと毒のあるような表現にも奥深さを感じます。

一部表現抜粋

鼎談の文脈もありますが、興味深かった表現を紹介します。

  • 「英語圏では、はっきり沈んだとか何人殺されたという言葉をちゃんと普通に使うのに、日本は玉砕したとか雅語に近くなる。とにかく言葉で巧みに本質をすり抜けるようにできていますね」
  • 「敗戦を終戦という言葉で濁す」
  • 「子供は大人の父である。子供にすべてがある。」
  • 「ガウディのあの変なお寺ですが、なんで日本人はあれがすきなんですかね。」
  • 「陸がやせると海もやせる。」
  • 「家と人間がいっしょに年をとっていくのを見ると、日本は捨てたものではないと思うんです。」
  • 「世界で、いちばん公害問題で地球規模で心を痛めているのはオランダでしょう。」
  • 「二酸化炭素が増えれば地球があったかくなって、北極の氷などが融けて海面の水位が上がればオランダは水没して国がなくなります。」

以前から『となりのトトロ』の批判に「農村を美化している」という趣旨のものがあります。この鼎談での以下の宮崎さんの発言から、あえて美化して作品を作ったのかもしれないとも感じます。

“私は敗戦後、学校とNHKのラジオで、日本は四等国でじつにおろかな国だったという話ばっかり聞きました。実際、中国人を殺した自慢話をする人もいましたし、ほんとうにダメな国にうまれたと感じていたので、農村の風景を見ますと、農家のかやぶきの下は、人身売買と迷信と家父長制と、その他ありとあらゆる非人間的な行為が行われる暗闇の世界だというふうに思いました。

ですから、日本の景色を見ても、水田を見ても、咲き乱れる菜の花畑を見ても、みんな嫌いな風景に見てました。嫌いだったんです。

それを回復するためにえらい時間がかかりました。

宮崎駿 談(PP.164-165)。

まとめ

この本はまるで現在の日本を見透かしているかのような、“預言の書”になっています。

“預言の書”と言っても、何年が何月に大地震が起きるというようものではなく、日本という国がどこへ進もうとしているのか、世界がどのように動いていくのかを、民族、歴史、社会、国、世界、文化、そして地球・・・という大きな視点で提言されています。

“歴史”という人類の歩みを深く知り、考えて未来について話されているので、30年も前に現在の問題の重要性を提起できるのだと感じました。

現在の混迷は1992年の混迷とは、違った形の混迷さを迎えていますが、「名こそ惜しけれ」など日本人が大切にしてきたもの価値を再認識し、混迷から抜け出すヒントがあるように思います。

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