紹介本 『認知症世界の歩き方』

認知症世界の歩き方 / 筧裕介 / ライツ社

この お勧め本紹介を通じて本を読むことの楽しさや色々な価値観を知り、成長に繋がることを紹介したいと思っています。

今回紹介する「認知症世界の歩き方」は、認知症の当事者視点の情報を発信することを目的に、約100名の当事者へのインタビューをもとに作成され本です。

認知症に関する情報は、このブログ「介護に関わるブログ」でも多く紹介してきましたし、調べれば豊富に入手することができます。

しかし、その情報の中においても、認知症を抱える当事者の視点で語られたものは多くありません。

著者の筧裕介さんは、認知症にまつわる情報が、医療従事者や介護者からの視点のものが多く、当事者の視点が欠けていることに問題意識を持ち、本書の出版となりました。

以前クリスティーン・ボーデンさんというはオーストラリア在住の方が「私は誰になっていくの?」というアルツハイマー病の本人が書いた本として大きな反響を呼んだことがあります。

1995年5月、46歳という若さで脳に萎縮が見られるアルツハイマー型認知症と診断された彼女の体験記は、病気によるハンディをばねに変え、新しい人生を踏み出していく一人の勇気ある女性の姿が丁寧に記されています。

医学的見地に基づく包括的な知識を背景に、患者本人の体験を通じた具体的病状や心情を伝える貴重な資料であり、また、患者を取り巻く社会に一石を投じる啓発書としても極めて重要な役割を果たしました。

認知症の生きづらさ

認知症は、脳の病気や障害など様々な原因により、認知機能が低下し、日常生活全般に支障が出てくる状態をいいます。
アルツハイマー型認知症は、認知症の中で最も多く、脳神経が変性して脳の一部が萎縮していく過程でおきる認知症です。

次いで多い血管性認知症は、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害によっておきる認知症です。

初期は、加齢による単なる物忘れに見えることが多いでしょう。

しかし、仕事や家事など普段やってきたことでミスが増える、お金の勘定ができなくなる、慣れた道で迷う、話が通じなくなる、憂うつ・不安になる、気力がなくなる、現実には見えないものが見える、妄想があるなどのサインが出てきたときには、専門機関に相談してみましょう。

厚労省 みんなのメンタルヘルス 抜粋

認知症のある人の心と身体にはどのような問題が起きていて、いつ、どこで、どのような状況で生活しづらさを感じているのか分からないことは多くあります。

認知症に関する情報は医療従事者や介護者視点で症状を説明したもので、当事者視点で「困りごと」を語った情報はほとんどありません。

一部「認知症当事者ナレッジライブラリー」のように、ご本人の「語り」に基づいてまとめたものもありますが、患者数から言うと少ない数です。

当事者視点の欠落が、認知症に関する知識やイメージの偏りを生み、本人と周囲の生きづらさにつながっています。

「困っていることをうまく説明できない」という当事者の気持ちと、「本人に何が起きているのかわからない、どうすればいいのかわからない」という周りの人の気持ちのすれ違いを少しでもなくすことが、この本の目的でもあります。

大切な家族の変化に回りが理解を示せなかったり、同じ事を語る当事者についつい怒ってしまうこともあります。

医療従事者や介護従業者であれば知識として当事者の困り事を理解しようとしますが、それでも知識不足による虐待事例のニュースは後を絶たない状況です。

本 イメージ

本書は認知症のある人にインタビューを重ね、蓄積した「語り」をもとに構成されています。

認知症のある人が経験する出来事を、「旅のスケッチ」と「旅行記」の形式にまとめ、身近でわかりやすいストーリーとして紹介しています。

認知症は一人ひとり違う

介護保険制度においても認知症施策推進は重要な論点のひとつです。

介護サービス事業所においては、認知症介護実践者研修という認知症介護の専門職員を養成するため、認知症高齢者の介護に関する知識や技術を習得する実践的な研修があります。

介護の現場で質の高い認知症支援を行うこと、および認知症介護技術の向上を目的としており、すでに介護の現場で働いている人を対象とした研修となります。

その研修においては事例検討やロールプレーイングなど実際に「本人の視点」から認知症を学び、生活の困りごとの背景にある理由を知る研修が行われています。

本当にこのような研修が必要なのは本来一緒に当事者を支える家族かもしれません。

認知症のある人が入浴を嫌がるという話はよく耳にします。

しかし、その背景となる認知機能のトラブルは人それぞれです。

温度感覚のトラブルでお湯が極度に熱く感じるのかもしれないし、空間認識のトラブルで服の着脱が困難であったり、時間認識のトラブルで入浴したばかりだと思っているのかもしれない。

また、服を脱ぐことで身に付けている大事なお金がなくなってしまうという恐怖かもしれません。

「入浴を嫌がる」という1つのシーンをとっても、その人が抱える心身機能障害や生活習慣、住環境によって、なぜ、どんなことに困難を感じるかは異なります。

多くの介護従業者は今ままでの経験値の積み重ねと職員間の情報共有で色々と検討・実践を重さね支援していきます。

家庭内介護においてもこの本で「本人の視点」から認知症を学び、生活の困りごとの背景にある理由を知ることで、認知症との付き合い方や周りの環境を変えることができるかもしれません。

「病」を診て「症状」に対処する医療のアプローチだけでなく、「人」を見て「生活」をともに作り直す介護現場のアプローチが自宅でも可能になる可能性があります。

ケアイメージ

まとめ

高齢化の進展とともに、認知症患者数も増加しています。

「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」の推計では、2020年の65歳以上の高齢者の認知症有病率は16.7%、約602万人となっており、6人に1人程度が認知症有病者と言えます。

認知症の世界は、自分と関係のない世界と思っているかもしれませんが、上記の通り身近な事です。

少し先の自分、あるいは、自分の大切な人が生きることになる世界となる可能性は大きいのです。

その世界では誰もが旅の初心者です。

知らない国へ海外旅行に行くような気持ちで、この本書を旅のガイドブックとして、いつか出発する旅の予習をしてみてはいかがでしょうか。

今までできていたことができなくなり、あなたは自分の変化に戸惑っているかもしれません。

そうした小さな違和感はなかなか受け入れがたいものです。

でも、勇気を出して、ごまかしたり、否定したりすることをやめることができたら、これからのことに目を向けることができます。

旅には頼れる仲間がいたほうがいいと思います。

旅行会社に相談する様に認知症になっても地域包括支援センターなど地域には相談する場所があります。

複数の仲間がいると、役割分担ができて安心することができます。

本書は、旅を楽しむために、身の回りの環境を整え、できることとできないことを知るガイドブックになります。

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