超入門カーボンニュートラル / 夫馬 賢治 /講談社
この お勧め本紹介を通じて本を読むことで色々な価値観を知る事で成長できることを紹介したい思っています。
今世間では自民党総裁選の話題で持ち切りですが、現政権菅内閣は昨年10月26日に開会した臨時国会の所信表明演説で、国内の温暖化ガスの排出を2050年までに「実質ゼロ」とする方針を表明しました。
この「2050年カーボンニュートラル宣言」でエネルギー問題を含め大きく国の政策が変わるカーボンニュートラルについて分かりやすく紹介された本書について紹介します。
カーボンニュートラルとは何か?
プラス・マイナスゼロ
カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量をプラス・マイナスゼロにすることです。
その目的は、地球の温暖化をおさえることで、温室効果ガスの代表例は二酸化炭素と言われています。
石油などが燃えると、中に含まれる炭素部分が燃焼反応で酸素と結合して二酸化炭素になり排出されます。
植物を育てると葉の気孔から二酸化炭素を吸収して養分に転換するので、二酸化炭素は減ることは小学生の理科で学びました。
二酸化炭素が大気中への排出されることが「プラス」で吸収されることが「マイナス」で、現在は排出量が増え続けている状態です。
排出「プラス」と吸収「マイナス」が相殺できればプラス・マイナスゼロの「ニュートラル」の状態となります。
冒頭にお伝えした通り日本は2050年に排出「プラス」と吸収「マイナス」を相殺する「カーボンニュートラル」を実現することを宣言しました。
温暖化の原因
地球の気温は1850年以降上昇を始め、2016年、2019年、2020年の3年に最高レベルに達しています。
1850年から1900年までの平均と比較して、1.2℃上昇しています。
「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」という世界の科学者グループによると、気温上昇の原因は、人間社会の温室効果ガス排出である確率が95%以上だと発表しています。
IPCCの分析では、温室効果ガス排出が地球温暖化の原因である確率は年々上がっています。
一方一部温室効果ガスが気候変動に影響を及ぼしていることに懐疑的な意見も一部あります。
懐疑的派の意見としては、人為的な温室効果ガス排出が原因ではなく、自然的要因の太陽活動の活発と停滞でや氷河期と間氷期を繰り返しているので、その過程という意見などです。
日本では懐疑派の言論が話題になることもあるが、世界の科学者からはほとんど支持されていなく温室効果ガスが原因という意見が主流です。
気候変動が及ぼす影響
気候変動の要因が温室 温室効果ガス
2020年に環境省が出した報告書からは、気候変動が日本経済、生活、健康、自然環境に与える影響はかなり厳しく報告されています。
この本では、例として紹介されていましたので、実際に報告書を見て重要と感じる影響を抜粋し紹介します。
農業分野
気候変動は、作物の生育や栽培適地の変化、病害虫・雑草の発生量や分布域の拡大、家畜の成長や繁殖、人工林の成長、水産資源の分布や生残に影響を及ぼし、食料や木材の供給や農業・林業・水産業に従事する人々の収入や生産方法に影響を及ぼす。
こうした影響は、気温や水温、CO2 濃度の上昇といった気候変動の直接的な原因によるものと、水資源量の変化や自然生態系の変化を介した間接的な原因によるものがある。
また、農業・林業・水産業分野における気候変動影響は、商業、流通業、国際貿易等にも波及することから、経済活動に及ぼす影響は大きい。
環境省 気候変動 影響評価報告書 総説 令和2年12月 抜粋
水環境・水資源
水環境分野
気候変動による気温の上昇は、湖沼やダム貯水池、河川、沿岸域や閉鎖性海域の水温を上昇さ
せ、水質にも影響を及ぼす恐れがある。また、気候変動による降水パターンの変化は、ダム貯水池や河川への土砂流入量を増加させ、沿岸域や閉鎖性海域では、河川からの濁質の流入増加も懸念される。
水資源分野
気候変動による降水パターンの変化は、無降水日数の増加等や積雪量の減少、蒸発散量の増加による河川流量の減少や地下水位の低下を引き起こす。気温の上昇により、農業用水・都市用水等の水需要量や、人々の水使用量は増加することが想定されるが、冬季の降雨事象の増加とともに積雪量が減少することや融雪時期の早期化などにより、需要期に水を供給することができない可能性も懸念される。
また、海面水位の上昇は、河川河口部や地下水において塩水遡上範囲を拡大させ、塩水化を引き起こす。
環境省 気候変動 影響評価報告書 総説 令和2年12月 抜粋
自然生態系
気候変動は、分布適域の変化や生物季節の変化、及びこれらの相互作用の変化を通し、生態系の構造やプロセスに影響を及ぼす。
加えて、自然生態系分野における気候変動影響は、生態系から人間が得ている恵み、すなわち生態系サービス26を通して、農業・林業・水産業分野や国民生活、産業経済分野へも影響が波及することが特徴である。
人間社会は食料や原材料、極端な気候現象による被害の緩和、水質や大気質の向上、文化的・美的価値等の生態系が提供する様々な生態系サービスに依存している。
気候変動等の影響によりこれらを提供する生態系が効果的に機能しなくなると、提供される生態系サービスが劣化したり、喪失したりする恐れがある。
環境省 気候変動 影響評価報告書 総説 令和2年12月 抜粋
自然環境に直結する影響が年々増し、一次産業の影響が他の産業にも大きく影響を与えたいきます。
主な産業・経済活動としては、食品製造業、金融・保険業、建設業などに影響を与えリスクが高まります。
経済成長と気候変動
脱資本主義
社会活動は温室効果ガスを生むため、経済成長が気候変動を起こしていると主張する人も多くいます。
実際にコロナ禍で経済活動がストップした時期にCO 2等温室効果ガスや人為起源エアロゾル等の排出量は産業革命以降前年比で最も大きく減少したという情報もあります。【SDGs コロナ禍における取り組み】
ロックダウン等行動が抑制された時期が継続されることが健全な状態ではなく、脱資本主義は資本主義をやめて産業革命前に戻すことが正しい選択肢とも思いません。
資本主義ではない政治体制の国であっても、体制を維持するためには、ロシア、中国、ベトナムなどでも経済成長は追求されています。
経済成長を追求しない共産主義の実現を訴える独裁体制の1つが北朝鮮が二酸化炭素排出量少ないとしても理想的な国家とはいえません。
経済成長を求めなくても人間らしい生活が送るのには制約があり、その状況を作りあげるには政策的な強制が必要です。
そのひとつの考え方が「人新世の資本論」かもしれません。
デカップリング論
デカップリング論は、経済成長と温室効果ガス削減を両立できるという考え方です。
この考え方が国連環境計画(UNEP)であり、デカップリングの実現が持続可能な開発につながるという考え方です。
社会の繁栄が一定レベルを超えると資源の絶対量は減るというデータがあります。
先進諸国ではGDPが伸びながら温室効果ガスが削減していく技術、環境も整っています。
新興国においては、経済成長と温室効果ガス排出量が比例していますが、要因としては人口増加の影響も大きくあります。
UNEPが中心に経済成長・生活水準の向上と環境制約をいずれも進めるには、開発途上国にはリープフロッグによる飛躍が必要だと紹介しています。
カーボンニュートラルを実現する未来
電力の未来
冒頭で2020年の菅義偉首相の所信表明演説について紹介しましたが、2050年にカーボンニュートラルをめざすには、2018年時点で電力からの温室効果ガスは4.5トンであります。
これを排出「プラス」と吸収「マイナス」に相殺する ネットゼロにしないといけない。
2050年にカーボンニュートラルを実現したときの世界の電源構成モデルのシュミレーションは以下の通りです。
風力と太陽光の自然エネルギーで66%を占めます。
特に洋上風力発電はポテンシャルが大きいと想定しています。
洋上風力発電には海底に固定する着床式と海上に浮遊させる浮体式があり、コスト面で現在着床式が普及していますが、浮体式の開発も急速に進んでいます。
2050年頃には浮体式でもコスト競争力を持てると想定しています。
火力発電は7%にまで減少し、温室効果ガスの排出が多い石炭や石油による発電はゼロを想定しています。
電源構成のモデルに登場しない、地熱発電も地域によっては、高いポテンシャルを秘めています。
原子力発電は、安全保障の課題もありますが、原発事故のリスクの小さい核融合炉型原発が開発されれば、ポテンシャルが上がる可能性もあります。
交通や運輸の未来
交通と運輸の温室効果ガス排出量は全体の16%を占めています。
現在動力源に石油を使っている為です。
カーボンニュートラルを進めるには、電気自動車(EV)や燃料電池自動車(FCV)の普及が効果的と言われ世界各国で開発が進められています。
ハイブリット車の優位性を唱えているトヨタ自動車としても、世界の潮流には抗えない状況です。
2050年の見通しでは、ガソリン・ディーゼル車は4%まで激減する事が想定されます。
大型車やバスもEV・FCV化が進み、トラックはテスラやボルボなどがEVを、トヨタなどがFCVを開発予定です。
FCVでは燃料に水素を使いますが、その製造過程で温室効果ガスを出すため「グレー水素」と呼ばれてもいます。
それに代わる手法として、工場内で二酸化炭素を回収して製造する「ブルー水素」があります。
また、再生可能エネルギー電力を用いた水電解で水素を作る「グリーン水素」などがあります。
世界で見ると、今後、水素市場は2.5兆ドル規模。自動車業界に匹敵する3000万人という雇用を生む可能性も秘めているという試算もある。
食品・農業の未来
食品・農業も大量に温室効果ガスを排出しています。
2050年の人口は100億人に達し、森林を農地に転換する形での食料増産はできないと想定されます。
また化学肥料は温室効果ガスに変化するため使用不可となり、食料増産には、新たな産業転換と生産性の向上が必要です。
化学肥料を使わない、自然に配慮したリジェネラティブ農業が広がっています。
マクドナルドやウォルマートなど多くの食事を提供する大手企業でもリジェネラティブ農業に転換する動きが始まっています。
ただし、この方法で収穫量を増やすにはイノベーションが必要で各社は研究に莫大な投資を行っています。
今後は食糧増産の課題解決に食料需要の抑制や代替食の検討も必要です。
大豆肉などの代替肉は大豆を牛の餌にせず、そのまま食る為、効率よくタンパク質を摂取できます。ただし食感や旨味などのニーズには技術開発が必要です。
培養肉は家畜の細胞だけを培養し、肉と同じ成分を生産する為、代替肉よりも食肉に近い味わいとなります。
イスラエルのベンチャー企業は、肉の食感、質感、見た目を完全に再現した培養肉ステーキの開発に成功しています。
まとめ
脱炭素という言葉をニュースで見かけることが一気に増えています。
このブログでも紹介しているSDGsと相まって金融や経済へのインパクトは大きくなっています。
本書では来るカーボンニュートラルの世界の覇権争いについても詳しく書かれていますが、宣言に関して実直に進める国民性である日本の技術開発における優位性にも期待したいと思っています。
コメント
コメント一覧 (1件)
[…] 12月7日の日経新聞の記事によると、経済産業省がカーボンニュートラルに向けた政府の方針から、 世界的な脱炭素の流れに沿って再生エネルギーを「主力電源化」する政策を強化する方針です。 […]