キレイゴトぬきの農業論 / 久松 達央
このお勧め本紹介ブログでは、本を読むことの楽しさや色々な価値観が知れ、人生が豊かになる本を紹介したいと思っています。
今回は、ニュースピックスのHORIE ONEの番組に「日本の危機?令和の農業革命」未経験から脱サラし就農した「久松農園」代表の久松達央さんが登場し、内容が興味深かったので、面白かったので久松達央の著書も購入してみました。
HORIE ONEの番組では「化学肥料を行わなければ80億人の食料は賄えない」とか「窒素肥料の使用を禁止して、破綻したスリランカの農業政策」や「日本の農業はここ10年で耕作者人口が激減し否応なしにハードランディングする」など興味深い内容でした。
「有機農業だから安全でおいしい」「農家は清貧な弱者である」といったよくある誤解をロジカルに解いております。
また、小規模農家の戦い方も詳しく解説しました。
キレイゴト もタブーも一切無し。畑で徹底的に考え抜いた知的農業論です。
ぜひご一読ください。
また、関心のある方にぜひお知らせいただければ幸いです。
久松農園サイト 本書紹介文
目次
- 第1章 有機農業三つの神話
- 第2章 野菜がまずくなっている?
- 第3章 虫や雑草とどう向き合うか
- 第4章 小規模農家のゲリラ戦
- 第5章 センスもガッツもなくていい
- 第6章 ホーシャノーがやってきた
- 第7章 「新参者」の農業論
有機農業三つの神話のうそ
有機農業三つの神話
世の中の人々が持っている有機農法のイメージを著者は「有機農業の三つの神話」と呼びその誤解について本書で紹介しています。
- 「有機だから安全」
- 「有機だから美味しい」
- 「有機だから環境にいい」
「有機だから安全のうそ」
有機農法を危険だと言っているのではなくどの程度安全かと言えば、適正に農薬を使って普通の農産物と同程度に安全と述べています。
詳細は本書で科学的に記載されていますが、現在の農薬は仮にある農薬が、関連するすべての農産物に基準上限まで残留していて、一生涯にわたって毎日、国民平均の100倍食べ続けても、動物実験で健康に影響が出ないほどリスクはないレベルになっています。
安全と安心は違いどんなに理屈で説明されても嫌なものは嫌で、農薬がかかったものは安心して食べれないと言う人がある一定数いると言うことです。
「安全」は客観的なもの、「安心」は主観的なものでどちらが正しいとか上位とかでなく別な概念ということです。
「有機と味は別の話」
これも有機栽培がまずいと言っているわけでなく、有機だから必ず美味しいとは限らないという意味です。
著者は野菜の味を決める大きな要素は以下の三つの要素で8割方決まると言い、この3つが十分に満たされれば、誰でもある程度美味しい野菜が育てられると言うことです。
- 栽培時期(旬)
- 品種
- 鮮度
ではなぜ有機野菜が美味しいいかというと、有機農業をしている生産者の多くが、結果的に美味しさの三要素を満たしているからです。
「有機だから環境にいい」もケースバイケース
環境問題というのは実に広範囲で複雑多岐にわたるので有機農業という一つの方法論が、あらゆる側面において環境負荷が少ないとは限らないのです。
水田の例を上げていて、水田に除草剤を使用する替わりに紙マルチ栽培という再生紙を田面に敷き詰めながら移植を行う再生紙マルチ栽培を紹介していました。
研究結果では紙マルチ栽培は突出して二酸化炭素の排出量が高いという別の問題が発生したりもします。
常識を覆す小規模農業
本書の最後に「新参者」の農業論として、これから10年で農業就業人口が激減していく中でこれからの農業の考えていくべき問題点を提示されています。
著者が就農地を探していく際、行政の窓口や会う農家の人に「農業は一人ではできない。家族でするものだ」とか「有機の人はいらない」とうい言葉を多く聞かれた様です。
今でも基本的に変わっていませんが「家業」に偏重している日本の農業の実態が参入する人の幅を狭めている要因のひとつでもあります。
有機農業は「きちっとした経済農業」になり得ず「趣味の農業」という考え方も多く存在する様で、既存の農業技術や農政を厳しく批判している「思い先行」の一定層の人がいる事を紹介しています。
ろくに栽培技術もない初心者が理念先行の頭でっかちな話ばかりすれば、行政や地域の農業の先輩たちから疎んじられるのも仕方ありません。
趣味の菜園は農業ではなく広義の「農」と生業としての「農業」は異なるものです。
「農」に興味を持つ人は、つい農業に惹かれてしまいますがアウトドア的な田舎暮らしへの憧れや家庭菜園として植物を育てる楽しみを「農」という言葉で表現しているに過ぎません。
釣りは10人に1人がやっているポピュラーな趣味のひとつですが、釣り人が「漁的な暮らしを求めて」「食料の自給のために今こそ釣りを」と考える人はあまりいません。
趣味の釣りと同様に生業としての農業の面白さも家庭菜園の楽しさとは異なります。
農業はお金を稼ぐためにする仕事と考えれば合理性や効率性を考えてプロセスを工夫する楽しみがそこにはあります。
著者は厳しい言い方として趣味の菜園をやっている人が「農業」という肩書が欲しくなるのは、植物を育てるプロセスを純粋に味わっておらず、ただの趣味ではないという看板が欲しくて「自給」や「環境」というキーワードを口に出すのだと考えています。
戦略的に久松農園を称して、巨大な家庭菜園だとし多種多様の植物を「野菜の美味しさの三要素」=「旬、品種、そして、鮮度」に拘り個別配送するしくみが結果差別化に繋がっています。
農業を始めた当時は自らも頭でっかちな有機農法でスタートしましたが、今では生業としての「農業」の合理性を考えても有機農業が自らの販売スタイルにおいて効率的なものとなっています。
コメント