このブログでは「介護役立情報」を紹介します。
今回は2021年8月21日の日経新聞の取材記事を参考に、増え続ける介護給付費を独自の取り組みで給付費を抑制しながら高齢者の自立支援に繋げる取り組み事例を紹介します。
また、現在の制度で抑制できない課題も紹介します。
介護給付費の現状
介護給付費は制度が2000年にスタートし20年を超え 介護給付費用の膨張が止まらない状況です。
介護給付費の負担割合における自治体(市町村)割合は全体の11.25%と数字的には大きくありませんが、高齢化の進む地方行政の財政には大きな負担となっています。
全体における介護給付費予算は2020年度は10兆円に達したもようで、介護保険制度が始まった00年度の3兆2400億円から3倍以上になるようです。
高齢者人口の増大による自然増や制度が周知されサービス利用が定着した要因です。
たび重なる制度改正で給付費は抑制されていますが、抑制が進むと競争力のないサービス事業者の倒産も増えます。
出来る施策としては、利用者負担割合いを増やすか介護度で利用出来るサービスを減らすなど限らています。
持続可能性な制度として進めるには、地域に応じて細かく給付費の圧縮をはかることが必要となってきます。
利用人数の自然増は避けられない為、高齢者1人当たりの給付費を抑制できる方法をそれぞれの市町村は考える必要があります。
現在も続くコロナ禍で国も市町村も予備費予算等莫大の支援を行い財政状態を更に悪化させている点を踏まえると次回2024年の改定は大幅な給付単価の引き下げが予想されます。
コロナ禍における介護事業所及び介護従事者への支援においても市町村の財政事情により支援の幅を大きく違っている現状があります。
国の一律支援策とは別に介護従事者へ個別に支援金を支給したり、独自の補助金で感染対策に係る費用を介護事業者に支援する市町村もあります。
中には感染対策とICT活用の観点からiPad を支給する自治体もありました。
は保険者(市区町村を中心に、広域連合など全国1571団体)ごとに比較可能な18年度で26万円(利用者負担軽減の払い戻しなどを除く)と、制度開始時から11万円強増えた。
このようなことから広域で事業所を展開する事業者やマネジメントに関わる方はより市町村の財源や福祉に関わる政策が市町村の主導が大きくなることを踏まえ対策する必要があります。
公費という観点から公平に給付費は支払わる必要がありますが、市町村のきめ細やかな対応で重度化を防ぐことで給付費を抑制する事例など日経新聞の記事を参考に紹介します。
独自の取り組みによる給付費抑制事例
日経新聞の記事によると高齢者1人当たりの給付費は保険者(市区町村を中心に、広域連合など全国1571団体)ごとに比較可能な18年度で26万円(利用者負担軽減の払い戻しなどを除く)と、制度開始時から11万円強増えている様です。
そうした中、給付を減らしたのは18市41町村のいくつかの取り組み事例を紹介しています。
うまくいけばそのことを真似る自治体やサービス事業者もありますので、今から介護サービスに関わる官民の方は対策や準備を行う必要があります。
給付を減らしたのは18市41町村の情報としては、市では高知県南国市の13.2%減を筆頭に、徳島県小松島市、北海道石狩市、沖縄県浦添市などが上位となっています。
町村では東京都小笠原村が46.9%減でトップ。北海道鶴居村、沖縄県与那国町が続きます。
事例を紹介する市町のホームページを見る事や実際に市に問い合わせするなど自らのサービス地域に活かせる情報を取りにいく必要があると思います。
コロナの第一波の際大規模なクラスターが発生した市に対策状況を電話でお尋ねしたことがあります。
現場の状況が鮮明に理解でき、その後のコロナ感染対策に非常に役立った経験があります。相手の状況に配慮した問い合わせであれば、多くの市町村においてもご回答頂けるいい事例だと思います。
高知県南国市 事例
きめ細やかな個別支援プランに各分野の専門家の意見が反映されて効果を生んだ事例です。
地域ケア会議や介護予防の取り組みはどの市町村でも行われていますが、そこに関わる方の熱意と自立支援の結果が給付費抑制につながった好事例だと思います。
高知県南国市はケアマネジャーだけでなく保健師や栄養士、理学療法士などが協力して介護予防に取り組み1人当たり給付費を01年度の28万円弱から24万円(18年度)まで減少させています。
各分野の専門家を集めた「地域ケア会議」で身体的負担の少ない公営住宅を紹介したり、水分摂取の不足などを警告したりと個別の支援プランを策定。
食事や運動なども精緻に計画・検証し、多くの検討事例で自立生活が維持できるようになった。
介護給付 抑制に「秘策」日経新聞記事参照
北海道 鶴居村 厚真町 天塩町他
取材記事にもありますが、 大都市圏から離れたハンディを逆手にとり、地域密着の高齢者福祉が成果を生むことがあります。
地域のコミュニティと官民の距離が近いというメリットがある反面、良くも悪くも情報スピードが速いことがあります。
都市部より遅れてコロナ感染も発生した際も、デマや過度な対応など事態が落ち着くまでの混乱も少なくありません。
国の進める地域包括ケアシステムが効果的に機能するための「4つの助(自助・互助・共助・公助)」についても、地域密着の根ざした過疎地が進めやすいことも理解できます。
特定非営利活動法人ふまねっと
介護保険制度が導入された2000年度以降、高齢者1人当たりの給付額を減少させた北海道の自治体は20を超える。
18年度の給付額減少率(01年度比)は鶴居村(37%減)が北海道で最大で、全国でも2位。
「ふまねっと運動」をはじめユニークな手法で高齢者の認知機能改善を引き出している。
ふまねっと運動は鶴居村が地域住民の運動機能を高めるために普及させたエクササイズで、網を踏まないようにリズムよく歩く。
04年から道内を中心に普及した運動には歩行機能と認知機能の改善効果が期待できるという。
村に運動を広めたNPO法人ふまねっと(札幌市)の北沢一利理事長は「鶴居村はふまねっと運動を早くから取り入れ、愛好者も多い」と話す。
タンチョウの村として知られる同村の人口は2505人(21年6月末時点)。地域コミュニティーの結束力を活用して高齢者の自立を促すための知恵を絞ってきた。
村内5カ所の集いの場「認定サロン」では体操やボードゲーム、脳トレなどの介護予防メニューを充実させている。運営者も地域住民が主体で、地域コミュニティーとの関わりは深い。
新型コロナウイルス禍で対面の交流が難しくなってからは各家庭に設置したIP端末を利用し、テレビ電話形式でサロンメンバー同士の対話を可能にしている。
一方、厚真町(20%減)は16年から介護認定を受けていない町民向けに独自のミニデイサービスを導入している。定員は9人で、20年度は一日平均で約6人が利用している。
利用は無料で、送迎サービスもあることから高齢者の閉じこもり解消や介護予防にもつながっているという。また、心身機能の維持や認知症予防に寄与するリハビリ特化型のサービスも行っている。
北海道の減少率は2位が西興部村(27%減)、3位が天塩町(25%減)、4位が厚真町(20%減)と全国的にも高い。いずれも大都市圏から離れたハンディを逆手にとり、地域密着の高齢者福祉で効果を上げている。
天塩町(25%減)は65歳以上の高齢者に対する健康維持と介護予防につながるメニューを00年ごろから取り入れている。
転倒予防を目的とするストレッチなどの運動教室は月1~2回開催しており、ここ数年に年間15回前後、約200人の高齢者が参加している。
こうした集まりや外部講師を招いた介護予防、認知症予防などの講演で新たなコミュニティーが生まれている。
日経新聞 介護給付削減、全国2位の鶴居村「ふまねっと」で活気 抜粋
関東エリア
人口の多い大都心部において給付費の抑制を行うことが現状難しいことを物語っている取材内容です。
減少出来た地域は過疎地域で人口が少ない分一人の費用を抑制することで大きな効果を出すことができます。
核家族や一人暮らし世帯が増える都市部に市町村の関わりで全体の給付費を抑制することは難しい現状があります。
国が進める介護予防・日常生活支援総合事業におけるデイサービスやヘルパーに大手介護事業所が参入できにくのは、株主利益を優先する資本主義においては当たり前の事と思えます。
本当に要介護一歩手前とされるフレイル 予防を行うのであれば公費で結果が検証できるまでの中長期の経過が必要と感じます。
全国的に増加傾向が続く介護給付費について、関東・山梨の8都県で高齢者1人当たり給付費を2001年度と18年度で比べたところ、減少したのは7市町村だった。
介護給付費は自治体財政の圧迫要因にもなるが、介護の必要なく生活できる「健康寿命」を延ばすなどの独自の取り組みで、給付の増加を小幅に抑える自治体もある。
高齢者1人当たり介護給付費の減少率が46.9%と、全国の市町村で最大だった東京都小笠原村。
01年度の23万2600円から18年度は12万3500円に減った。同村が取り組むのが介護予防の体操だ。
身体や認知の機能が低下し、要介護一歩手前とされるフレイル(加齢による虚弱化)予防のため、週2回、高齢者を集めて行っている。
毎月1回、介護者や保健師らが集まって話す機会も設けている。大きな負担を抱える介護者の精神的ケアに加え、介護の疑問や不安を保健師に気軽に相談できる関係を築くことにも一役買っているという。
介護給付費が減った7市町村のうち、5村は東京都島しょ部だった。小笠原村に11年有料老人ホームができ、村外の特別養護老人ホームなどにいた高齢者が村に戻り有料老人ホームに入る例が増えた。
同村の担当者は「介護保険サービスを利用していた高齢者が有料老人ホームに入居し、介護給付費の公費負担が減ったことも一因」とみる。
千葉県富里市は1人当たり介護給付費が01年度の15万1200円から18年度は14万6300円と3.3%減少した。同市は成田国際空港のある成田市と隣接している。
市の担当者は「成田空港の発展とともに市内の大規模開発が進み、00年代まで働く世代の人口が大幅に増えていた影響で、介護負担の大きい高齢者が比較的少なく現状は給付額上昇を抑えられている」と分析する。
一方、給付費が減少していないものの、増加を小幅に抑えた自治体もある。7.5%増にとどまった埼玉県鳩山町が力を入れるのは、町民・行政一体での健康寿命を延ばす取り組みだ。
住民ボランティア「鳩山町健康づくりサポーターの会」が運営し、高齢者向けにストレッチや筋トレなどの「地域健康教室」を毎週4会場で開いている。
自治会単位でも、体力が少し低下した人も参加できる体操教室を展開。担当者は「住民主体で健康維持活動をきめ細かく続けてきたことが、介護給付増大を抑制できた一因ではないか」としている。
茨城県利根町も介護給付費増加率は10.0%と低水準。町独自の認知症予防対策に取り組む。06年から始めた「フリフリグッパー体操教室」では、高齢者らが思い思いに体を動かす。
筑波大学の研究グループが考案し、足踏み、腰を左右に振る、手の握り開きの3動作をミックス。前頭葉を活性化するという。
同町の高齢化率は45%だが、「21年3月末時点の要介護(要支援)認定率は12.1%と比較的低い水準」(福祉課)だ。
介護給付費減少率、東京・小笠原村トップ体操で予防 抜粋
まとめ
日経新聞の記事は各エリアごとに丁寧に取材されていて地域の現状や都市部の課題が明白になっています。
人口減少地域の人口の少ない市町村ではある程度行政と民間ボランティア等の連携で効果が出されることもありますが、最も給付費が膨らんだのは大阪市など現状の制度だけでは抑制は難しい課題もあります。
大阪市においては高齢者世帯のうち独り暮らしの割合が42%(全国平均は27%)を占め、認定率も高く、施設サービスより訪問介護などの居宅サービスの利用が多い特徴もあります。
地域的に健康寿命が短い地域の課題を抱えている大阪市にとって給付費抑制は生活習慣病対策など、長期で行う課題も多いい現実があります。
一朝一夕にいかない課題は地域においてそれぞれですが、国が進める地域包括ケアシステムにおける4つの助(自助・互助・共助・公助)における互助・共助はインセンティブがない中、難しいと思います。
このブログでSDGsについて取り上げていますが、行き過ぎた資本主義を抑制していくにはある程度斎藤幸平さん提唱されるコモン(公)の領域を広げる必要もあるように感じます。
大阪市と西成区の平均寿命
平均寿命の推移
2000年から2015年までの男女の平均寿命の推移を、折れ線グラフで表しています。
平均寿命は延びており、男女とも国・大阪市より短い状況です。
2000年 | 2005年 | 2010年 | 2015年 | |
---|---|---|---|---|
西成区 | 71.5 | 73.1 | 72.4 | 73.5 |
大阪市 | 75.7 | 77.0 | 77.4 | 78.8 |
国 | 77.7 | 78.8 | 79.6 | 80.8 |
2000年 | 2005年 | 2010年 | 2015年 | |
---|---|---|---|---|
西成区 | 82.1 | 83.3 | 83.8 | 84.4 |
大阪市 | 83.4 | 84.5 | 85.2 | 86.2 |
国 | 84.6 | 85.8 | 86.4 | 87.0 |
資料:厚生労働省「市区町村別生命表」
大阪市と西成区健康寿命
健康寿命と不健康な期間(平均)
2015年の区・大阪市の健康寿命を、男女別に棒グラフで表しています。西成区の健康寿命は、男女とも大阪市より短い状況です。
健康寿命 | 不健康な期間の平均 | |
---|---|---|
西成区 | 70.67 | 1.56 |
大阪市 | 77.14 | 1.74 |
健康寿命 | 不健康な期間の平均 | |
---|---|---|
西成区 | 79.29 | 3.95 |
大阪市 | 82.63 | 3.76 |
不健康な期間の平均:介護保険の要介護2~5のデータより算出した「日常生活動作が自立していない期間の平均」
資料:2012年度厚生労働科学研究費補助金「健康寿命における将来予測と生活習慣病対策の費用対効果に関する研究班」による「健康寿命算定プログラム」
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