SDGs思考 田瀬 和夫/ インプレス
このbookブログのテーマは、読書習慣のない方にも読書の楽しさや自身の成長の効果などを伝える事です。
今回紹介する本はここ2~3年のトレンドSDGsについて目指す世界観や企業活動での実装について分かりやすく紹介されています。
著者の 田瀬和夫さんは、SDGパートナーズ有限会社の代表取締役CEOです。
92年外務省に入省し、国連政策課、人権難民課、アフリカ二課、国連行政課、国連日本政府代表部一等書記官等を歴任され、国際課題に関わっています。
SDGsは2015年9月の国連サミットで採択されましたが、その1年前の2014年5月に国連を退職し、デロイトトーマツコンサルティングの執行役員に就任しています。
同社でCSR・SDGs推進室長として日本経済と国際機関・国際社会の「共創」をテーマに、企業のサステナビリティ強化、SDGs導入、ESG対応、人権デューデリジェンス実施等の支援を行っています。
2017年9月に独立し、新会社SDGパートナーズを設立して現在同社代表取締役CEOという経歴からもSDGsの世界観を深く理解されています。
SDGsに通底する世界観の理解
『アジェンダ2030』に込められたメッセージを、4つのキーワードから読み解きます。
第1のキーワードは「すべての人が」とういう「誰ひとり取り残さない」(no one will be left behind)という決意を表明しています。
具体的には格差のない世界、障がい者やLGBTQ(QueerまたはQuestioning)といった全体では少数とされる人々の権利が蔑ろにされないとういう事です。
第2のキーワードは「自分らしく」で、「より大きな自由」(in larger freedom)を意味します。
同じ自由を表す言葉でも、Libertyが「他人に拘束されない」という意味です。
ここでのFreedomは「人生における選択肢が多いこと」を表されています。
FreedomとLibertyの意味の違い
簡単にまとめると両単語の意味は以下のようになります
Freedom | 何かからの自由・解放 | to be free FROM something |
Liberty | 行動の自由・権利・何かを行うための解放 | to be free to DO something |
具体的例
Tomは人身事故を起こして刑務所へ収監されました。
刑期は8年の予定でしたが、5年を過ぎたところで仮釈放になりました。
Tomは刑務所から出て自由な生活を送ることとなりましたが、3年の間車の運転をすることが禁じられているほか、その他様々な行動の制限があります。
この状況をfreedomとlibertyを使って説明すると以下のようになります。
Tom has been given his freedom to live in society again.
トムは、(刑務所から解放され)社会で生活するfreedom(自由)を再度与えられました。However, he does not yet have his liberty as he is not free to do whatever he wants to do.
しかしながら、彼はまだ、liberty(自由なことを行う権利)を持っていません。なぜならば、やりたいことを何でもやれる自由ではないからです。
writing buzz 参照
第3のキーワードは「よく生きる」だ。すべての生命が栄え、人々が身体的、精神的、社会的によく生きられる(well-being)という理想です。
well-beingまたはwellbeingは、1946年のWHO(世界保健機構)憲法草案の中に健康の定義として登場しています。
第4のキーワードは「世代を超えて」です。これは、今日の世代と将来の世代(present and future generations)の両方のニーズを満たすという考え方を表している。
スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリの様にZ世代の環境意識やエシカル消費へのマインドは高まっています。
ビジネス実装に役立つ思考法
企業がSDGsを実装するためには、企業の存在意義がSDGsと重なることを明らかにする必要があります。
この本では「六方よし」経営について紹介しています。
近江商人の信条である「三方よし」、すなわち (1) 売り手よし、(2) 買い手よし、(3) 世間よしがSDGsのビジネスのあるべき姿をよく言い当てているということはよく言われます。
実際、日本の企業の中には顧客を含めた地域社会への貢献ということをもともとも創業の趣旨とした会社も多く、そうした企業はいまでも「三方よし」を体現されてきています。
一方、人類は近江商人の時代からさらに多くを学びました。
商品やサービスを作るためにはおおきな仕組みが必要になってきましたし、自然環境へのビジネスの影響も考えなくてはなりません。
さらに将来の世代に何を残すかというところまで、今の人類は考えて行動しなくてはならないのです。
SDGパートナーズは近江商人の信条を土台として、さらに三つの「よし」を加えた「六方よし」を提案します。
一つはサプライチェーン上の「作り手」が守られ真価を発揮すること、二つ目はわれわれの活動の舞台である「地球」が健康な状態にあること、そして三つ目はわれわれの次の世代、そしてそれに続く世代に借金を負わせないような行動をいま私たちが取ることです。すなわち
売り手よし、
買い手よし、
作り手よし、
世間よし、
地球よし、
未来よし。SDGs時代の「六方よし」経営をSDGパートナーズが応援します。
このことこそが限られた資源を奪い合う「ゼロサムゲーム」から、地球や未来の世代を含む全員が恩恵を受ける「プラスサム・ゲーム」の基礎を創ると信じているからです。
SDGパートナーズ 六方よし経営
生存戦略という観点
企業の具体的な生存戦略という観点では、SDGsに取り組む意義について次の3点が考えられます。
成長戦略
SDGsが示しているのは、2030年に向けて世界が進む方向性です。
2020年の発刊でいうと今後10年間のトレンドを表しています。コロナ禍でもそのトレンドイメージは更に強くなっています。
特に、(1)食料と農業、(2)都市、(3)エネルギーと原材料、(4)健康と福祉という4分野において、膨大な新市場が形成されると期待されています。
菅内閣が掲げたカーボンニュートラルのインパクトは大きくどの4分野をとっても新しいビジネスチャンスがあります。
新たなニーズの創造
2点目は、新しいニーズが発生するということです。
既存市場においても、環境や人権など、SDGsに適った製品やサービスや購買行動も変化してきています。
エシカル消費の様に「環境・社会に配慮した商品・企業」が、これからの購買の判断基準になりつつあります。
•今後の購買意向では「環境・社会に悪影響を与える商品・企業」に対する不買や「環境・社会に配慮した商品」に対する購入意向が約7~8割にのぼる予想されています。
•現在の購買実態と比較すると「環境・社会に配慮した商品」に対する購買意向は購買実態より40ポイント前後高く、これからの生活者の購買行動における判断基準となることが予想される。
優秀な人財の確保
3点目は、人財についてです。
明確な定義ではありませんが、「ミレニアル世代」から「Z世代」の中で、特に環境問題や社会課題に強い関心を持ち、その解決に積極的に貢献したいと考える人々のこと 「SDGsネイティブ」 よばれています。
「SDGsネイティブ」と呼ぶべき若年世代への対応が、企業の人事戦略上の重要な課題になりつつあります。
時間的逆算思考
現在の延長線上では達成が困難と思われるようなものも多く含まれています。
こうした目標を「ムーンショット」と呼びます。その由来は、アポロ計画です。
人類にとってのムーンショットであるSDGsを達成するためには、「バックキャスティング」で考え、必要なイノベーションを起こしていかなければなりません。
バックキャスティングとは、将来のあるべき姿、理想の状態を定義したうえで、実現するための必要条件や前提となる技術、取るべきプロセスを設定していく考え方です。
その反対が、フォアキャスティングです。フォアキャスティングとは、現在の統計やデータ分析から、今後の予測を立て、必要な施策を導き出す考え方です。
バックキャスティングが未来からの逆算思考であることに対し、フォアキャスティングは現状からの積上思考であるといえます。
SDGsの達成には、バックキャスティングとフォアキャスティングの融合が必要であり、そこに社会価値と経済価値を両立する新しいビジネスモデルを生み出すチャンスがあります。
GLOBIS 知見録 参照
SDGsの169のターゲットには、かなりのムーンショットが含まれています。
たとえば
- 「2030年までにエイズ、結核、マラリアを根絶する(SDG3-3)」、
- 「すべての女性及び女児に対するあらゆる差別を撤廃する(SDG5-1)」
など現在の状況からの延長線上にある成長でなどです。などです。
これらを達成するためのアプローチとして「バックキャスティング」からアクションプランを立案してく思考は他にも転用できるようにも思います。
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