問いのデザイン/安斎勇樹・塩瀬隆之/ 学芸出版社
この お勧め本紹介を通じて本を読むことの楽しさや色々な価値観を知り、成長に繋がることを紹介したいと思っています。
今回はサブタイトルが創造的対話のファシリテーションという「問いのデザイン」を紹介します。
コロナ禍で加速したリモートワークでファシリテーションの重要性についてリンクトイン(LinkedIn)日本代表の村上 臣さんも番組「リモートワークはなぜ格差が生まれるのか?」述べています。
この本では、企業・学校・地域にはびこっている「人々の認識と関係性」の病を解決するための「問いのデザイン」の技法について手順を2つの段階に分けて紹介されています。
具体事例を交えながら問いに関する基本性質など分かりやすく説明されていて、あらゆるコミュニケーションの場面で活用できる内容です。
固定化された「認識」と「関係性」とは
認識の固定化
認識の固定化とは、当事者に暗黙のうちに形成された認識(前提となっているものの見方・固定概念)によって、物事の理解や創造的な発想が阻害されている状態です。
日常生活を送る上で特定の認識を変化させたり固定化させてりしながら、何かに上達したり、コミュニティに馴染んだりして必要なものでもあります。
日常の大半の部分においては「効率」や「生産性」に貢献してくれます。
ところが無意識に自動化され続けた認識は新しいことを学習する場面において変化の足かせになることがあり、一度習得してものを「捨てる」ことに抵抗があるものです。
関係性の固定化
関係性の固定化とは、当事者同士の認識に断絶があるまま関係性が形成されてしまい、相互理解や、創造的なコミュニケーションが阻害されている状態です。
人間は他者と協働しながら活動していくうちに他者との関係性もまた、時間が経つにつれて安定し、固定化されてしまいます。
コミュニティの中で暗黙に形成された関係性は個人の認識と同様に簡単に変わらないものになってしまします。
さらには、互いの認識や前提に「ズレ」があったまま関係性が固定化されてしまうと、その溝を乗り越えることが容易なものでなくなってしまします。
問いのデザインとは何か
ゾウの鼻くそはどこに溜まるのか?
問いのデザインについて考える前に、そもそも「問いとは何か?」について体系立てて紹介されています。
問う行為とは、それに対して「答えを出す」という行為がセットで想定されているという事です。
問いの設定、問いかけによって、導かれる答えも変化していきます。
この事が問いの基本性質の1つですが問いの役目は、良い答えを手に入れることだけではありません。
人の思考や感情に刺激することも、問いの基本性質の1つで、「考えること」の動機づけになります。
事例として紹介されていた動物園で「ゾウの鼻くそはどこに溜まる?」という問いを尋ねた際、参加者は多くの思考をめぐらしたことを紹介されていました。
面白いのは訪ねた側もその答えを知らない事例でそれでも参加者が主体的にいろいろと考えた上で、多くの仮説を述べ、またこの疑問について誰かと話し合いたくなるというような問いかけであったということです。
このように、問いには、集団のコミュニケーションを誘発するという基本性質もあります。
認識と関係性を揺さぶる「対話」
問いから生まれるコミュニケーションには、「討論」「議論」「対話」「雑談」の4種類についても具体的に紹介されています。
①討 論
討論とは、あるテーマに対して、異なる意見・立場に分かれてお互いの意見を述べ、どちらが正しいか決めるコミュニケーションです。
②議 論
議論とは、あるテーマに対して、関係者の合意形成や意思決定するための話し合いです。論理的な話の道筋や主張の正しさ、効率性が重視され「結論を決める」ことが目的です。
③対 話
あるテーマに対して自由な雰囲気のなかで、効率性が重視され、それぞれの「意味づけ」を共有しながら互いの理解を深め、意味づけをつくりだしたりするコミュニケーションです。
④雑 談
対話と同様に自由な雰囲気の中で行われますが、価値観や意味付けの共有までは踏み込まない情報のやりとりによって成立します。
固定化された認識と関係性を揺さぶるのことに必要なことは対話です。
対話は物事に対する意味づけ、つまり個人の認識を重視します。
その事によって、一人ひとりの暗黙の認識が可視化され、相対化されることで、認識が問い直され、互いを理解するきっかけとなる効果があります。
対話を通して問いに向き合う過程で、個人の認識は内省されていきます。
また対話は、個々人の暗黙の前提の違いによる断絶に気づかせてくれる効果もあります。
さらには、自分とは異なる他者の認識について想像を促し、新たな共通認識と関係性をつくりだす可能性もあります。
このように、対話を通して問いに向き合う過程で、集団の関係性が再構築されていきます。
コメント