起業の天才!: 江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男/ 大西 康之/
この お勧め本紹介を通じて本を読むことの楽しさや色々な価値観を知り、成長に繋がることを紹介したいと思っています。
戦後最大の疑獄とされる「リクルート事件」の中心人物江副浩正氏の生涯や理念を詳細な取材を基に書かれた本です。
冒頭は、現在のリクルートの繁栄とそのリクルートの社史から完全に外された江副氏の状況やスクープの当事者へのインタビューから始まります。
この後の本編に登場する魅力たっぷりのリクルート関係者と企業が成長・拡大する中でリクルートの良さから少しずつ離れていく創業者の描写は読みごたえのある本です。
勿論現在のリクルートの繁栄は、日本中にインパクトを与えた事件で傷ついた企業イメージを払拭するだけの次世代の経営者と社員の努力は大きいものと思います。
ただ、本書の前半部分で描かれる創業当時から成長までの過程は現代でも役立つ内容です。
製造業から情報社会への転換・既得権益やしがらみを打破していく姿は、失われた30年と言われる平成日本が違う形で成長できた可能性も感じます。
ベンチャースタートアップ企業がアメリカと比較すると少ない日本の状況は、このリクルート事件と前回この本紹介ブログで紹介したライブドア事件も関連するようにも思います。
生い立ち
幼少期についても詳しく書かれていています。
浮気癖のある父・良之は、妻を二転三転させ、実母の記憶も愛情も注がれることなく、住まいも転々とした幼少期を過ごします。
戦時中だったため、栄養失調と診断されるように劣悪な幼少期の環境がハングリーな人格を形成していきます。
物語の冒頭、アメリカや他のベンチャー企業では創業を支え、創業者の暴走を抑えるエンジェル投資家がいる点を紹介し、その存在がなかったことで事件が起こったとしています。
エンゼル投資家の様な存在のなかった江副氏は、ドラッカーの経営理論に傾倒していきます。
日本型経営の破壊
1960年、江副氏は新聞広告業の延長で「株式会社大学広告」を立ち上げます。
その後「企業への招待」という広告だけの本を無料で学生に配り、企業からの広告収入だけで利益を得るという今までにないビジネスモデルを確立させます。
朝鮮戦争特需による日本経済の復活を背景に、コネ入社が終焉を告げ、実力を重視する企業側の需要と、働く会社を自ら決めたい学生側をうまくマッチングするものとなりました。
この様な、マッチング情報のビジネス化はその後のリクルートの「リボンモデル」として活かされます。
破竹の勢いで会社が大きくなり、大学生のサークル感覚から、主要企業の人事担当者と密接な関係を結び、採用情報を一手に担う会社に成長していきます。
成長の過程では、大手の参入などあり、ニッチ産業では、寡占しか生き残れないという危機感による一体感で乗り越えていきます。
新たなビジネスモデルを見出す能力と人材を見出し、その人材を生かすマネジメントの天才だった江副氏がその後のリクルートの成長する仕組みを作りあげていきます。
人材採用には適性検査を確立していき、優秀な東大卒採用と地方の大学進学出来ない貧しい家の能力の高い高卒者を積極的に採用し競わせます。
また、優秀な女性も男女雇用機会均等法が確立する前から能力主義で活用していきます。
社員のモチベーションを高める為に社員が常々「やってみたい」とか不満に思っている事柄について「君はどうしたいの?」と聞きます。
戸惑いながらも答える社員に対して我慢強く誘導していき、最後には「じゃあそれ、君がやってよ」と言い、不満ばかりの評論家から当事者に変えていきます。
本書では江副氏を企業経営のとびぬけた才能があると評価するわけではなく、優秀な人材を見抜き自分の周りに置くことに長けいると書かれています。
不動産業界のマイナスのイメージを払拭するための情報誌づくりのエピソードでは、校正の為に寝ずに自ら働き続ける女性職員のモチベーションの高さも紹介しています。
不動産投資と経営スタイルの変化
求人広告事業や不動産情報誌事業など多角化していくリクルートは、リゾート開発に進出していきます。
当時リゾート開発は多額の投資の為、財閥系以外の開発は困難という反対意見が多くありながらの岩手県のホテル経営からのスタートでした。
そのホテル経営で地元と関係性を築き岩手県の土地購入に着手していきます。
最終的にはスキーリゾートの開発へと到達します。
リゾート地は、近隣を流れる安比(あっぴ)川から「安比高原スキー場」と名付けられ、「APPI」ステッカーを車の後ろに貼るのが流行りました。
土地開発で手応えを得た江副は、銀座の一等地に自社ビルを建設するなど次々と不動産へと投資し、1974年には不動産デベロッパーの「環境開発株式会社」を設立します。
環境開発株式会社がのちの「リクルート事件」のリクルートコスモスに変わっていきます。
当時バブルが始まった日本において、不動産部門は、たった2年で情報誌で稼いだ10年分の利益をもたらことになります。
ここから江副氏の変化が始まり、不動産に取りつかれ当時の本社ビルの地下にピアノバーをオープンさせ、政界の人間とコネをつくり始めます。
皮肉なことに、情報の民主化を唱え成長してきたリクルートの江副氏は、より成功を求めて既得権益にどっぷりと浸かっていき、事件につながっていきます。
まとめ
江副氏は「リクルート事件」の主犯として1989年に逮捕され、13年の裁判を経て有罪が確定します。
日本のジャーナリスト、評論家の田原総一郎氏は、『正義の罠 リクルート事件と自民党-20年目の真実』を出版し、現在、リクルート事件は冤罪と主張しています。
この本の前半は希代の起業家である江副氏の「大いなる成功」を描き、後半は事件のてん末を含めた「大いなる失敗」が描かれています。
江副氏が失脚した後、リクルートコスモスと、子会社のノンバンクであるファーストファイナンスは1兆8000億円の借入金を抱えます。
残されたリクルート社員たちが奮闘し、06年に借金を完済していくまでの様子も描かれています。
もちろん社員には、江副氏に対するさまざまな思いがあったことが推察される。
それでもリクルートが成長を続けている背景には、江副氏が作ったさまざまな仕組みが自走している事実もあります。
リクルートには独特の制度があり、一番有名なのは、Ringという新規事業のコンテストです。
社員にビジネスアイデアを出させて表彰し、一番面白いアイデアには資金を出して事業化させるもので、ここから数多くの事業が生まれています。
江副氏は、確かに法律や倫理に反する行動をした。
しかし、彼の全てを否定し、彼の描いた日本の未来像まで「なかったこと」にしてしまうにはあまりにも罰が重いように感じます。
リクルート事件をきっかけに「楽して稼ぐことは悪い」「株は危険」という安易な考えが長く日本の株式市場にも蔓延していた様にも感じます。
働き方や価値観は多様化していますが、歴史に学ぶ意味では「江副氏の遺した大いなる成功と失敗」には大きな学びがあると思います。
これから未来を描いていく若い人に読んで欲しいと思う本でした。
コメント
コメント一覧 (4件)
[…] 紹介本 『起業の天才!: 江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男』で詳しく紹介しています。 […]
[…] かつて日本にも江副浩正とういう「企業の天才」がいて現在アマゾンの収益源の柱となっているAWS(企業向けクラウド・コンピューティング)を、 30年以上も前に構想していました。 […]
[…] このブログで紹介した『起業の天才!: 江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男』では、第二電電創業メンバーとして参画を希望する江副氏が稲盛氏の意向も受け参画できない事が描かれています。 […]
[…] この本の著者である大西康之さんは、以前このブログで紹介した「起業の天才!江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男」も書かれ、経営者の素顔に迫る手腕を見せてきました。 […]