紹介本 『生物はなぜ死ぬのか』

生物はなぜ死ぬのか / 小林 武彦

この お勧め本紹介を通じて本を読むことの楽しさや色々な価値観を知り、成長に繋がることを紹介したいと思っています。

今回紹介する「生物はなぜ死ぬのか」を読むきっかけは、NewsPicksの番組「WEEKLY OCHIAI」での 対談がきっかけです。

重たいテーマに関して、以下の対談番組の紹介文にあるとおり、生物学的視点の新たな「死生観」を知ることは、生き方にもいい影響を与えてくれると感じたからです。

また、対談での小林武彦さんの人となりにも好感が持てたのも読んでみたいと思った要因でした。

どうしてこんなに不公平なんだ!そう感じる場面が多い世の中かもしれないが、一つだけ誰しもに平等に訪れるものがある。そう、「死」だ。

生物である限り、人は必ずいつかは死を迎え、身近な人の死に直面すれば悲しみ、老いを感じるごとに不安も増す。

大抵の人にとって死とは恐怖の対象でしかないが、生物学的視点で新たな「死生観」を提示したのが、著書『生物はなぜ死ぬのか』が話題の小林武彦氏だ。

なぜ死は存在するのか?老化とは何か?そして“死なない”AIが生み出す未来とは?生命の誕生や生物の進化から見える「死」の意味を通じて、私たちが「生きる理由」とは何かを探る。

WEEKLY OCHIAI

生命の誕生と大絶滅

なぜ地球で生物が誕生したのかは、今でもわかっていません。

創造主という概念もありますが、生物学からのアプローチにおいても生命の誕生は奇跡に近い出来事です。

46億年前に地球が誕生して以降、何億年もかけて生まれたたった1つの細胞が、現存する地球のすべての生物の始祖となったと考えます。

生物が誕生した確率を、「25メートルプールにバラバラに分解した腕時計の部品を沈め、ぐるぐるかき混ぜていたら自然に腕時計が完成し、しかも動き出す確率に等しい」と例えられ、奇跡的であることが伺えます。

細胞は、細菌のような「原核細胞」から、ミトコンドリアや葉緑体と共生する「真核細胞」へと変化を遂げ、今から10億年前に「多細胞生物」が誕生しました。

その過程でも死んだ生物は分解され、作り変えられて入れ替わるという「ターンオーバー」を繰り返しています。

その「変化」の中で効率よく増えるものが「選択」的に生き残るという、「変化と選択」が生物の多様性を支えています。

絶滅の連鎖

過去、地球には5回の生物の大量絶滅がありました。もっとも最近の大量絶滅は約6650万年前、中生代白亜紀末期の大絶滅で、恐竜など生物種の約7割が地球から消え去りました。

そして、現在の地球は第6回目の大量絶滅時代に突入しています。

紹介本 『サピエンス全史』にも書かれていましたが、人類のオーストリア大陸上陸はコロンブスのアメリカ大陸発見やアポロ11号による月面着陸に匹敵するほど重要なことであったと述べられています。

狩猟採集民族が初めてオーストラリアへ移住したことによりこの大陸の生態系を元の面影がないほど変えてしまいます。

多くの生態系、特に有袋類の哺乳動物はその後数千年のうちに、巨大な生き物は事実上全て姿を消します。

オーストラリアの食物連鎖はホモ・サピエンスのせいで断ち切られ、配列替えがおこなわれています。

このような歴史はアラスカを渡りアメリカ大陸に渡ったサピエンスによっても行われます。

こうした認知革命によるホモ・サピエンス移住は、まさに生態学的な大惨事をもたらしました。

近年で言うと私たち人間も含める哺乳類だけ見ても、ここ数百年で80種が絶滅しています。

2019年に生物多様性と生態系の現状を科学的に評価するIPBES(イプべス)が報告書をまとめたところ、地球に存在する推定800万種の動植物のうち、少なくとも100万種は数十年以内に絶滅の可能性があるそうです。

そのペースは、これまでの地球史上最高レベルです。

普通に考えると地球の温暖化など産業革命後の人類の生活が生物に与えている影響は大きく、前回の隕石の落下以上のダメージを地球に与えたいます。

これだけ多量に、しかも急激にいなくなると、似たようなニッチの生き物が抜けた穴を補うことがもはやできなくなります。

そうすると、それら絶滅した生き物に依存して生きていた生き物も絶滅する可能性も増えていきます。

さらに、それらに依存していた生き物も絶滅し、ドミノ倒しのようにあっという間に多くの動植物が地球から消えていく可能性があります。

そうなれば、人類にとっても深刻な食糧不足は避けられず、食料を巡って戦争が勃発すれば長期化しさらに悲惨な状況も考えられます。

そもそもヒトはどのように死ぬのか

2500年前ヒトの寿命は15歳

旧石器~縄文時代(2500年前)には、日本人の平均寿命は13~15歳だったと考えられます。

この時代霊長類(サル)よりも寿命が短かかったのは、環境に左右され生活が安定せず、狩猟での事故死、そして何より病気や栄養不足で乳幼児の死亡率が高かったのが原因でした。

もちろん当時も幼少期を生き延びれたヒトは出産・子育てをして、30代、40代まで生きました。

現在よりも多産で多死のこの状態が生物学的には進化を加速させ、のちの人類の大躍進に繋がった可能性があるようです。

現在の日本においては1981年以来、日本人の死因の1位はがんです。

がんの多くは加齢に伴うDNAの変異によって生じます。

2019年の時点で、2位は心疾患、中でも多いのは心筋梗塞や狭心症であり、主に心臓に血液を送る血管の老化によって起こります。

4位の脳血管疾患は、心疾患に似て、やはり血管の老化が主な原因です。

5位は肺炎であり、これは感染症や誤嚥によって起こります。老化による免疫機能や飲み込む力の低下の影響が大きいことも知られています。

このように、老化が主な原因となる疾病などで約7割の人が死んでいます。

現代人の死に方は、アクシデントで死ぬ、あるいは昆虫や魚のようにプログラムされた寿命で死ぬのと違い、「老化」の過程で死にます。

なぜ老化があるのか

細胞が老化すると体も老化します。

身体の細胞は、組織や器官ができていく過程でざっくり3種類に分かれます。

1つ目は、組織や器官を構成する「体細胞」です。これが数としては一番多いが、ヒトの体細胞は約50回分裂すると、やがて死んでしまいます。

その失われた体細胞を供給するのが2つ目の「幹細胞」です。たとえば皮膚の幹細胞は表皮の下の真皮に存在し、新しい皮膚の細胞を供給し続けます。

そして3つ目は、卵や精子を作る生殖系列の細胞です。

幹細胞と生殖細胞は生涯生き続けるが、ゆっくりと機能が低下します。

特に、幹細胞が老化すると新しい細胞の供給が鈍くなるので、全身の機能に影響が出ます。

歳をとるとケガが治りにくくなったり、感染症にかかりやすくなったりするのはこのためです。

腎臓や肝臓などの内臓の機能が低下する一因ともなっています。

新しい細胞を作り出す役割を担う幹細胞の老化が、ヒトの老化の原因の1つです。別の言い方をすれば進化で獲得した想定(55歳)をはるかに超えて、ヒトは長生きになってしまったのです。

生物はなぜ死ぬのか

死はヒトだけの感覚

少し残酷と前置きされながら、生物学的には、多くの生き物は、食われるか、食えなくなって餓死します。

これをずっと自然のこととして繰り返していてなんの問題もなく、ざっくり言うと、個々の生物は死んでいるが、生き物全体としては、地球上で繁栄しています。

寿命で死ぬ場合も同じで子孫を残していれば「命の総量は」はあまり変わっていません。

本来生き物にとっての「死」は、子供を産むことと同じくらい自然な、しかも必然的なものなのです。

しかしヒトの場合は少し複雑で、ヒトが死に対してショックを受けるのは、ヒトが強い感情を持つ生き物であるためです。

死を怖がる気持ちは、自分が死んだら周りの人が悲しむだろうな、苦労するだろうなという創造からもきています。

この同情心、徳(全体に対する優しさ)などの人間らしい感情・行動は、やはり変化と選択の進化の過程で獲得したものです。

自分だけが生き残ればいいという利己的な能力よりも、集団や全体を考える能力のほうが重要であり、選択されてきたのです。

生き物が死ななければいけない理由

生き物が死ななければいけない理由は、主に2つ考えられます。

その1つは、食料や生活空間などの不足です。しかし、この理由が当てはまるのは限られた空間で生活している生き物の場合です。

そうでなければ、不足が生じた場合、どこか新しい場所に移動したり、新しく食べられるものを探し出したりすればいいので、生物一般の「死ななければならない理由」というわけではありません。

生き物が死ななければいけないもう1つの理由は、「多様性」のためです。

生物学的にはこちらのほうが大きな理由で、激しく変化する環境の中で、生物は「変化と選択」と生き残りの仕組みを採用しました。

変化は文字通り、変わりやすいことであり、その性質のおかげで私たちも含めた現在の多種多様な生物が生まれました。

具体的には遺伝情報(ゲノム)が変化し、多様な「試作品」を作る戦略です。

変わりゆく環境下で生きられる個体や種がいることで、それらのおかげで「生命の連続性」が途絶えることなく繫がってきたのです。

自らの死が「生命の連続性」に役割を果たしているという価値観が自らの死を受け入れられるひとつの考え方かもしれません。

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コメント

コメント一覧 (1件)

  • […] 地球の持続可能性を考える上でSDGsの中に「人口を減らそう」と言う目標の欠落していて、原生林や原野といった自然生態系が消滅し野生動物の生物多様性が激減する未来は『生物はなぜ死ぬのか』や「サピエンス全史」でも紹介しました。 […]

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