日本酒ドラマチック進化と熱狂の時代 / 山同敦子
この お勧め本紹介を通じて本を読むことの楽しさや色々な価値観を知り、成長に繋がることを紹介したいと思っています。
今回は「愛と情熱の日本酒」で日本酒ブームの先駆けとなった山同敦子さんの第二弾です。
30年以上にわたり全国の蔵元や酒造りの現場を取材してきた集大成として書かれています。
日本酒の熱狂を生み出している「新時代の造り手」と進化する現場に長期に密着して描かれています。
日本酒を今まで飲んだことがなかったときにこの本に出会い、造り手の酒造りへの情熱を知り更に日本酒が好きになりました。
家のみブログでもこの本に登場する酒蔵のお酒を紹介していますので、併せて読んで頂ければ幸いです。
日本酒の空前の盛り上がり
オヤジの酒、古い酒と言うイメージが持たれていた日本酒が今、新しい感覚の、お洒落でかっこいい酒として世代や性別、国を超えて熱烈に支持されています。
新しい日本酒を世に出し、ファンをヒートアップさせているのが、主に1970年代半ば以降に生まれた団塊ジュニア世代の酒蔵の後継ぎたちです。
本書はその彼らのデビュー間もないころから、10年以上取材し、その世代の蔵元たちが様々な困難の中で、理想とする味を表現しようと奮闘するドラマチックを描いたルポタージュです。
若き蔵元の多くは大都市や海外で大学生活を送り、同世代の若者たちと同じようにイタリア料理やワインを楽しみながら生活を送ってきました。
彼らが故郷で家業に就き、醸造責任者として造る酒は、昔の伝統的な酒造りのオフシーズンに農業や漁業に従事する杜氏とは異なるテイストを持っているのは当然でしょう。
若い感性と独自の発想で造り上げた日本酒は、過去の日本酒にはない現代的な感覚は、今まで日本酒に縁のなかった同世代の青年たちや女性たち、国内外のプロたちも虜にしています。
造り手の熱狂
而 今
スター杜氏の苦悩と成長
但馬杜氏のもと二年間の酒造りを経たのちに、
6代目が自ら杜氏として醸したお酒を 「而今」と命名。而今という言葉には、
而 今 サイト
「過去にも囚われず未来にも 囚われず、今をただ精一杯生きるという意味があります。
「而今」が世に出たのは、2005年の春。三重県名張市にある木屋正酒造6代目の大西唯克さんが29歳のとき、杜氏に就任して初めて造った酒に名付けた新しい銘柄です。
このデビュー作が評判となり、その後も注目を浴び続ける大西さんは、蔵元杜氏のトップスターとして、ファンのみならず、後輩蔵元からも憧れの眼差しを向けられる存在です。
4代目の祖父の時代に700石ほどあった売上は大西唯克さんが蔵を継いだ時には200石を割っていました。
木屋正酒造は「高砂」と言う銘柄で近隣の旅館や居酒屋で「熱燗くれ!」と頼めば出てくる安い地酒を主に販売していました。
売上減少を食い止める打開策を考えるため酒販店へ営業に行っても「高砂」では相手にされなかった。
大阪の近鉄百貨店の催事に出店しているときに、試飲客として来ていた日本酒マニアに大阪の居酒屋に連れて行かれ、「お前もこんな酒を造れ」と言われ飲んだのが「十四代」だったのです。
若い蔵元が杜氏を兼任して、自ら造った酒として話題を集めているのは知っていたものの、飲んだのは初めてだったのです。
「うわああ、なんて旨いんだ!甘いのに、綺麗な味で、フレッシュだ!こんな日本酒があるんだ!」と興奮したそうです。
自分の蔵の酒質が良くないことは、漠然と感じていたが、評判の「十四代」とこれほど差があったか驚き、嘆いたがやがて嘆きは闘志に変わっていきます。
「まず、きちんとしたもの造りをしよう。質のいい酒を造れば絶対にわかってくれる人がいる。なんとしても自分が納得できる酒を造って、味で勝負できる場所で戦おう。」と目標を決めたのです。
東洋美人
色気のある美酒が立つ「原点」
澄川酒造場 東洋美人の名前が全国にわたるようになったのは、現在の蔵元で杜氏でもある澄川宜史さんの活躍は大きいです。
澄川酒造場はかつては一級酒や二級酒、級酒廃止後は上撰と呼ばれる安価な普通酒を販売していました。
東京農業大学在学中の3回生のときの研修先が「十四代」を造る山形県の高木酒造だったことで澄川さんの意識が大きく変化していきます。
本来経営者と杜氏は別で自分で杜氏をやることは想像を絶する大変な仕事であると「純米酒を極める」で上原浩さんも述べています。
実際に蔵人を動かし酒を造るのは杜氏であるにしても経営者が酒造に通じていることは重要です。
酒造りは通常春から秋は農業や漁業に従事し、閑散期に酒蔵にやってきて泊まり込みで従事する技能を持った季節労働です。
当時の高木酒造では杜氏は置かず、若い跡取りの高木顕綱さんが醸造責任者を務め、旨いと思う酒を自らの手で造り上げていたのです。
澄川宜史さんが研修生として参加した当時高木さんは28歳で日本酒業界に彗星のごとく現れ注目を集めていました。
受け入れた研修生はただ一人で高木さんにマンツーマンで酒造りを学び、その後高木酒造は研修生を受け入れることはありませんでした。
高木さんは、「澄川は僕のただ一人の弟子」と言い、澄川さんは、「酒造りの師匠は高木顕綱さんだけ」という存在になるのは、月日を経てからのことです。
まとめ
今ときめいている酒蔵さんのエピソードはこの他にも「新政」「貴」「口万」「若菜」「七本槍」「宝剣」「一白水成」と続きます。
造り手だけでなく、種麹のメーカーの物語や、酒米を作っている農家、仕込みの木桶をつくっている方など酒造りにかかわる方たちを広く取り上げ、ドラマチックを描いたルポタージュとなっています。
メインで取り上げている酒蔵以外に、巻末のほうには、いま勢いのある「寫樂 (しゃらく)」「仙禽」「風の森」「白隠宗政」などの蔵も紹介され地ます。
また、日本酒に情熱を傾ける酒販店リストは今後日本酒を購入する際の参考にしたいと思います。
日本酒に情熱を傾ける酒販店リスト
欲しいものは、インターネットで検索して取り寄せるのが手っ取り早いご時世。日本酒もネット専門の優良店も少なくないので、上手に利用すればいいだろう。ただし人気銘柄にプレミアをつけて、高値で販売する業者もあるので注意が必要だ。自分に合った日本酒を探したい人は、優れたアドバイザーのいる小売酒販店(いわゆる酒屋さん)と付き合うことをお勧めする。良心的な酒販店は、人気銘柄でもまっとうな小売価格で販売している。蔵元との信頼関係も厚く、限定品を扱っていたり、美味しい飲み方も提案してくれる。
本書 巻末付録 抜粋
一部関西紹介酒販店
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