紹介本 『安倍晋三回顧録』

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安倍晋三回顧録 安倍晋三[著]                           橋本五郎[聞き手]尾山宏[聞き手・構成]北村滋[監修]

本書はもともと1年前に出版される予定だったといいます。

ところが、あまりに機微に触れる部分が多く、安倍氏本人から出版延期の申し入れがあった様です。

その後、銃撃事件で亡くなってしまったため、昭恵夫人の同意のもと出版が決まったとことが初めに語られています。

欧米の指導者は、大統領や首相を辞めると時を経たずに回顧録を出版されることが多い様ですが、日本の場合は関係者に迷惑をかけないという配慮や自らを誇るようなことは慎もうという日本的な美徳の表れもあります。

回顧録には濃淡の違いはあれ、自己正当化もありますが、「歴史とは解釈」と英国の歴史家E・H・カーが指摘したようにいくつもの解釈があります。

すばやく回顧録が出される事で日本の政治に何が起きていてのか、より多角的に光をあてることができます。

インタビューは、首相退任1ヶ月後の2020年10月から約1年の間に、計18回36時間にわたって行われています。

読売新聞の橋本五郎特別編集委員と尾山宏論説員が聞き手を務め、安倍内閣で国家安全保障局長などを歴任した北村滋氏が監修しています。

なぜ『安倍晋三回顧録』なのか

「安倍晋三回顧録」の監修に携わった政治記者は回顧録の出版理由について以下のように述べています。

政治記者としての経験から言えば、安倍内閣は極めて特異な内閣でした。

第1次政権では、教育基本法の改正や防衛庁の省昇格、憲法改正の手続きを定めた国民投票法の制定など50~60年来の懸案を処理しました。

第2次政権では、特定秘密保護法の制定、集団的自衛権の限定的容認と安全保障関連法の整備、テロ等準備罪の制定などいずれも国論を二分する課題に取り組みました。

野党や一部マスコミからは、立憲主義を踏みにじる内閣と批判を浴びました。しかし、安倍首相・総裁のもとで戦われた六つの国政選挙はことごとく自民党が勝利しました。

政権選択の衆院選で勝利しても、次の参院選では議席を減らすのが常です。選挙で公約しても、期待したような成果を上げることは短期的にはまず無理です。国民に据えられることになるからです。

この「回顧録」には、長期政権の秘密とともに、「地球儀を俯瞰する外交」を通じて親交を深めた世界の指導者の人物月旦とエピソードがふんだんに盛り込まれています。

中曽根康弘元首相は「政治家の人生は、その成し得た結果を歴史という法廷において裁かれることのみ、評価されるのです」(『自省録 歴史法廷の被告として』新潮社)としばしば協調していました。

その意味でも安倍さん「回顧録」は、歴史の法廷に提出する安倍晋三の「陳述書」であるものです。

本書 なぜ『安倍安倍晋三回顧録』なのか 抜粋

■アメリカ・トランプ前大統領…「異例ずくめの大統領」

アメリカのトランプ前大統領については「つくづく異例ずくめの大統領でしたね」と振り返り、電話会談でオバマ元大統領と会話した時との違いを例に挙げました。

「オバマの場合、15分から30分程度と短めでした。しかし、トランプは違った。長ければ1時間半。何を話しているかと言えば、本題は前半の15分で、後半の7~8割がゴルフの話だったり、他国の首脳の批判だったりするわけです」

安倍晋三回顧録

トランプ氏については、「イメージとは異なる面もある」といいます。

「トランプはいきなり軍事行使をするタイプだと警戒されていると思いますが、実は全く逆なんです。

根がビジネスマンですから」

安倍晋三回顧録

そのためトランプ氏が北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記と会談を行う前に、安倍氏はあることを話したといいます。

『武力行使のプレッシャーをかけられるのは米国だけだ』とトランプに言い続けました」

「トランプが軍事行動に消極的な人物だと金総書記が知ってしまったら、圧力が利かなくなってしまう。だから絶対に気づかせないようにしなければならなかった」と当時を振り返っています。

安倍晋三回顧録

■中国・習近平国家主席…「強烈なリアリスト」

安倍氏は首脳外交で「相手の懐に入ることを心がけていた」といいます。

中国の習近平国家主席については次のように述べています。

「中国の指導者と打ち解けて話すのは、私には無理です」

「(習主席は)ある時、『自分がもし米国に生まれていたら、米国の共産党には入らないだろう。民主党か共和党に入党する』と言ったのです」

「彼は思想信条ではなく、政治権力を掌握するために共産党に入ったということになります。彼は強烈なリアリストなのです」

「習主席が政敵を倒し、権力を脅かす存在がなくなったから発言できたのでは」と推測しています。

安倍晋三回顧録

リーダー論

様々なことを決めるにあたり、滑り出しの時も含めて森喜朗元首相や中曽根元首相に心構えを教わったようです。

中曽根さんは、「総理大臣というのは一回弱気になったらもう駄目だ、自分が正しいという確信がある限り、常に間違ってないんだという信念でいけ」と仰っていた。

「常に前方から強い風が吹いてくる。それに向っていくという信念があって、初めて立っていられる」と最初に言われました。そうなのかと思ったら、実際そうでした。

安倍晋三回顧録

まとめ

インタビューのお二人は、国民が疑問に思っていることや「安倍政治」への厳しい批判も踏まえ、できるだけ率直にストレートに聞く事に心がけたようです。

安倍さんにとってはムッとするような質問も多々あったかと振りかえっているので、ある意味本音の部分も本書では書かれています。

最後のの締めくくりで多くの皆さんに読んで頂き忌憚のないご批判を受ける事で『安倍晋三回顧録』はいっそう「たたかれて、たたかれて、鍛えられる鍛造品」なるに違いないと書かれています。

500ページに及ぶボリュームですが沢山のエピソードが書かれていて、あっと言う間に読めてしまう内容なので是非手にとってみて下さい。

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