介護保険制度は3年に1度改定されます。2021年4月からの改定でより利用者にとって優遇される内容を紹介します。
感染症や災害への対応⼒強化
コロナ感染症や近年の大雨豪雨被害・台風や地震被害を受け対応力強化の指針が示されています。
特に新型コロナウィルスの様に高齢者施設でクラスターが発生する事例が多く見受けられました。
また、近年多発する大災害において、特に夜間の災害時対応は避難を含め課題が多く見受けられます。
(1)感染症対策強化
介護サービス事業所に、感染症の発生と蔓延等に関する取り組みについて義務付けされます。
【施設系】現在ある感染対策委員会の開催、指針の整備、研修の実施に加えて訓練(シュミレーションの実施を義務付けました。
【施設系以外】現在ある感染対策委員会の開催、指針の整備、研修の実施、訓練(シュミレーションの実施を新たに義務付けました。 (※)経過措置3年
実際に訓練している事業所とそうでない事業所では、発生後のクラスター率に違いがあります。
○業務継続に向けた組織の強化
感染症や災害が発生した場合であっても、必要な介護サービスが継続的に提供できる体制を全てのサービス事業者に、業務継続に向けた計画等の策定、研修の実施、訓練(シミュレーション)の実施等を義務付けました。
(※)経過措置3年
○ 災害への地域と連携した対応の強化
災害への対応においては、地域との連携が不可⽋な為、⾮常災害対策(計画策定、関係機関との連 携体制の確保、避難等訓練の実施等)が求められる介護サービス事業者(通所系、短期⼊所系、特定、施設系)を対象に、訓練の実施時に、地域住⺠の参加が得られる連携を努力義務としました。
地域包括ケアシステムの推進
●地域包括ケアシステムの背景
地域包括ケアシステムが必要とされるようになったのは、日本における急速な少子高齢化が背景にあります。
2000(平成12)年に介護保険制度が創設されて以来、要介護で介護サービスを利用する人は着実に増加していて、団塊の世代の約800万人が75歳以上になる2025年以降は、高齢者の医療や介護の需要がさらに増加することは必至です。
2005(平成17)年の介護保険法改正で「地域包括ケアシステム」という用語が初めて使われ、少子高齢化の進行が引き起こすと予想される問題を緩和するために、地域住民の介護や医療に関する相談窓口「地域包括支援センター」の創設が打ち出されました。
その後2011(平成23)年の同法改正(施行は2012年4月から)では、条文に「自治体が地域包括ケアシステム推進の義務を担う」と明記され、システムの構築が義務化されました。
2015(平成27)年の同法改正では、地域包括ケアシステムの構築に向けた在宅医療と介護の連携推進、地域ケア会議の推進、新しい「介護予防・日常生活支援総合事業」の創設などが取り入れられ、さらに力を注いでいます。
地域包括ケアシステムとは
地域包括ケアシステムは、少子高齢化に対応するために国が進める政策の柱といえます。システムの概要と、必要とされるに至った背景についてご説明します。
●地域包括ケアシステムの概要
環境の変化がストレスになる高齢者の中には、可能な限り住み慣れた地域や自宅で日常生活を送ることを望む人が多いでしょう。特に認知症を患う方への環境変化への配慮は必要となってきます。
また、地域内で介護が必要な高齢者をサポートするには、家族や地域、医療機関、介護サービス事業所が連携し合い、状況に応じて助け合う必要があります。
そこで、地域における「住まい」「医療」「介護」「予防」「生活支援」の5つのサービスを一体的に提供できるケア体制を構築しようというのが、地域包括ケアシステムです。
つまり、地域包括ケアシステムとは地域の実情や特性に合った体制を整えていくものです。全国一律ではなく、各地域で高齢化がピークに達するときを想定し、その地域が目指すケアシステムを計画していきます。
山間部と都市部の抱える課題は大きく違いますので、連携の在り方については、ある程度行政の裁量に委ねられています。
ここでいう「地域」とは日常生活圏域を指し、おおむね30分以内に駆けつけられる場所を想定しています。ある程度の規模の市・町では中学校区を日常生活圏域とし、その地域に地域包括支援センターを設置していくイメージです。(※詳しくは各市のホームページで「地域包括支援センター」で検索下さい)
高齢者の住居が自宅であるか施設であるかを問わず、健康に関わる安心・安全なサービスを24時間毎日利用できることが目的です。イメージで言うと日常生活圏ごとにグループホームや小規模多機能事業所を設置していく計画です。(※グループホームや小規模多機能事業所については、別途紹介します)
2021年4月改定における地域包括ケアシステム推進内容
住み慣れた地域で、尊厳を保持しながら、必要なサービスが切れ⽬なく提供されるよう取組を推進
(1) 認知症への対応⼒向上に向けた取組の推進
○ 介護サービスにおける認知症対応⼒を向上させていく観点から、訪問系サービスについて、認知
症専⾨ケア加算を新たに創設し認知症対応の専門職を育成します。
○ 緊急時の宿泊ニーズに対応する観点から、多機能系サービスについて、認知症⾏動・⼼理症状緊 急対応加算を新たに創設し、混乱した利用者の対応ができる事業所を増やします。
○ 介護に関わる全ての者の認知症対応⼒を向上させていくため、介護に直接携わる職員が認知症介護基礎研修を受講するための措置を義務づける。
(専門性を担保し、無知による暴言事例削減に努めます)
(※)経過措置3年
これ以外にもこれまではグループホームのユニット(1ユニット9名)を2ユニットまでに制約し、数量規制を行っていましたが、3ユニットを基準に変更しました。
これは特養の入居者を要介護3以上に制限したことにより、地域の認知症高齢者(要介護1~2)の入居希望者が入居できない課題への対応です。
(2) 看取りへの対応の充実
○ 看取り期の本⼈・家族との⼗分な話し合いや関係者との連携を⼀層充実させる観点から、基本報酬や看取りに係る加算の算定要件において、「⼈⽣の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」等の内容に沿った取組を⾏うことを求める。
看取りケアの専門性向上、施設で看取れない高齢者が在宅で終末期をおくれる体制作りの強化も含まれています。
(3) 医療と介護の連携の推進
○ 医師等による居宅療養管理指導において、利⽤者の社会⽣活⾯の課題にも⽬を向け、地域社会における様々な⽀援へとつながるよう留意し、関連する情報をケアマネジャー等に提供するよう努めることとする。医療と介護のさらなる連携モデル
○ 短期療養について、基本報酬の評価を⾒直すとともに、医療ニーズのある利⽤者の受⼊促進の観点から、総合的な医学的管理を評価する。老健施設が提供する短期入所療養介護について、短期入所生活介護と利用目的や提供サービスが類似している状況があるため、基本報酬の評価を見直すことになります。
○ ⽼健施設において、適切な医療を提供する観点から、所定疾患施設療養費について、検査の実施の明確化や算定⽇数の延⻑、対象疾患の追加を⾏う。かかりつけ医連携薬剤調整加算について、かかりつけ医との連携を推進し、継続的な薬物治療を提供する観点から⾒直しを⾏う。
○ 介護医療院について、⻑期療養・⽣活施設の機能の充実の観点から、⻑期⼊院患者の受⼊れ・サービス提供を新たに評価する。
介護療養型医療施設について、令和5年度末の廃⽌期限までの円滑な移⾏に向けて、⼀定期間ごとに移⾏の検討状況の報告を求める。今回廃止経過措置の延長がないことを改めて示した形となりました。
介護療養病床は、利用者の8割以上が後期高齢者であることから、社会保障費が膨らむ一因とされており、これまで廃止に向けた議論が続けられてきましたが、廃止期限を6年延長したものの、平成29年度末での廃止が決定しました。公費の公正・公平の観点から廃止の議論が継続されていました。
(4) 在宅サービスの機能と連携の強化
(5) 介護保険施設や⾼齢者住まいにおける対応の強化 ※(1)(2)(3)も参照
○ 訪問介護の通院等乗降介助について、利⽤者の負担軽減の観点から、居宅が始点⼜は終点となる場合の⽬的地間の移送についても算定可能とする。白タク規制から自宅から自宅のみが2種免許のない送迎を認めていましたが、中間移動の合理性から改定されました。
○ 訪問⼊浴介護について、新規利⽤者への初回サービス提供前の利⽤の調整を新たに評価する。清拭・部分浴を実施した場合の減算幅を⾒直す。
○ 訪問看護について、主治の医師が必要と認める場合に退院・退所当⽇の算定を可能とする。看護体制強化加算の要件や評価を⾒直す。
○ 認知症GH、短期療養、多機能系サービスにおいて、緊急時の宿泊ニーズに対応する観点から、緊急時 短期利⽤の受⼊⽇数や⼈数の要件等を⾒直す。在宅生活継続に関して突発的な在宅介護不足(介護を行う家族等の急な入院等)を柔軟に支援されます。
○ 個室ユニット型施設の1ユニットの定員を、実態を勘案した職員配置に努めることを求めつつ、「原則として概ね10 ⼈以下とし15 ⼈を超えないもの」とする。
(6) ケアマネジメントの質の向上と公正中⽴性の確保
○ 特定事業所加算において、事業所間連携により体制確保や対応等を⾏う事業所を新たに評価します。 ケアマネは使用するサービスを公表する様義務付けられました。
○ 適切なケアマネジメントの実施を確保しつつ、経営の安定化を図る観点から、逓減制において、ICT 活⽤⼜は事務職員の配置を⾏っている場合の適⽤件数を⾒直す(逓減制の適⽤を40 件以上から45 件以上とする)。
○ 利⽤者が医療機関で診察を受ける際に同席し、医師等と情報連携を⾏い、当該情報を踏まえてケアマネジメントを⾏うことを新たに評価する。
○ 介護予防⽀援について、地域包括⽀援センターが委託する個々のケアプランについて、居宅介護⽀援事業者との情報連携等を新たに評価する。
(7) 地域の特性に応じたサービスの確保
○ 夜間、認デイ、多機能系サービスについて、中⼭間地域等に係る加算の対象とする。認知症GH について、ユニット数を弾⼒化、サテライト型事業所を創設する。
○ 令和元年地⽅分権提案を踏まえ、多機能系サービスについて、市町村が認めた場合に過疎地域等において登録定員を超過した場合の報酬減算を⼀定の期間⾏わないことを可能とする。
令和2年提案を踏まえ、⼩多機の登録定員等の基準を「従うべき基準」から「標準基準」に⾒直す。
まとめ
地域包括システムという国が勧める地域の住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供されるサービスについてより国が強いメッセージを送る形となりました。
介護保険サービスは慢性的な人不足であり、その改善の為に今回は産前・産後、育児休業がより取得しやすくなり、職員の働きやすさを重視する改定内容もありました。
来年度(2021年度)介護報酬改定について、財務省は「プラス改定をすべき事情は見出せない」としたものの、「新型コロナウイルス感染症に対応するための臨時対応を否定するものではない」との考えを示しています。
コロナ感染対応を踏まえた小規模プラス改定となっていますが、各事業所は科学的根拠を持ったサービスを提供していかなければ、実質マイナス改定となります。
実際体力があり、新たなしくみに対応出来る事業所が優位性を保ち続けられ、変化に対応出来ない事業所は閉鎖のリスクも否めません。
サービス利用時には、新たな加算に柔軟に対応している事業者か、利用者数が極端に減少していないか、等廃業リスクに備えてサービスを選ばれる事をお勧め致します。
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