介事現場にとって朗報です。
岸田首相は19日、東京都内の介護施設を視察後、介護現場の負担を軽減するため、ケアプラン(介護サービス計画書)のデータを電子的に共有できる基盤を今年度中に整備し、全国展開を目指す考えを示しました。
規制改革推進会議と答申
規制改革推進会議は2016年から内閣府に設置されました。内閣総理大臣の諮問に応じる審議会です。
常設の機関として各分野の専門家が集められており、現在の規制改革推進会議は2019年10月に設置された組織です。
日本の経済成長を阻害するような規制や制度を見直し、時代のニーズに合った規制改革を実行するための”答申”を8か月ほどかけて取りまとめて、総理大臣へ提出しています。
答申とは
“答申”とは意見を述べるということですが、規制改革推進会議における答申はすべて「規制改革実施計画」として閣議決定し、速やかに実行されるべきだとされています。
「規制改革実施計画」を実行するのは各省庁となります。
本来の趣旨に沿った形で改革事項が各省庁で実施されているかどうか、規制改革推進会議はフォローアップしていきます。
2020年7月・介護分野における答申
介護職は2025年におよそ38万人不足すると見込まれています。
答申による課題
- 介護サービスの実施に欠かせない公的書類が自治体ごとに様式が違う。
- 自治体と事業者間などでの書類のやりとりがオンラインでない。
- 紙での書類保管が煩雑になっている。
等介護現場では事務作業に多くの労力が割かれ、大きな負担となっているのが現状です。
そのため2020年7月の介護分野の答申では、介護現場に大きな負担となっている事務作業をいかに減らし、少ない人材が本来の業務に時間を使えるようにするかという点に焦点が当てられました。
事務作業を減らして介護現場の生産性を向上させるため、以下のような事項が盛り込まれました。
[前回答申・介護サービスの生産性向上のための主な実施事項]
- 書類に関する見直し
(ケアプランなど行政へ提出する書類の簡素化・標準化・ICTの活用など) - 申請やデータのオンライン化
(全国共通の電子申請・届け出システムの整備、介護事業者間でのデータ連携の環境整備) - 電子署名の導入
(介護利用者のケアプランへの同意を、署名捺印から電子署名などへ) - 書類のデジタル化
(書類のデジタル保存と書類の保存期間の明確化)
2021年6月・介護分野の答申
前回の答申を受けて厚生労働省では21年3月に、介護分野の書類を半減するための取り組み状況を報告しました。
介護事業者の保有するケアプランなどのデータのデジタル化についても、連携システムの構築方針が示されています。
参考:厚生労働省「介護分野の文書に係る負担軽減について」
こうした国の取り組みを認めつつも、規制改革推進会議は介護現場の負担を減らす改革は道半ばであるとして、さらに継続的に取り組むよう求めました。
また夜間の業務負担軽減や人手不足への対策として、ICT導入だけでなく、ロボットやAI技術を導入することで業務効率を図れないか検証するように指示しました。
介護事業者の間接業務の負担を軽減するための国の取り組みは「成果を挙げるまでには道半ばの状況である」と厳しく評価しています。
介護現場における事務負担の軽減の経緯
人手不足の中で、介護現場のサービスの質の維持・向上を実現するための以下のような方向性が示されました。
- 業務フローの分析・仕分け
- 高齢者の介護助手等としての活躍推進
- ロボット・センサー、ICT 等の活用等による介護現場の業務効率化
特に介護現場における業務効率化には文書量の削減とデータ管理方法の改善は急務です。
厚生労働省においても社会保障審議会介護保険部会介護分野の文書に係る負担軽減に関する専門委員会が設置され、以下の検討が進められています。
検討事項
介護分野において、国、指定権者・保険者及び介護サービス事業者の間でやり取りされている文書に関する負担軽減を主な検討対象とする。
(1)これまでに取組が進められている以下の分野について、必要に応じ更なる共通化・簡素化の方策を検討する。(様式例の見直し、添付文書の標準例作成)
- ① 指定申請関連文書(人員・設備基準に該当することを確認する文書等)
- ② 報酬請求関連文書(加算取得の要件に該当することを確認する文書等)
- ③ 指導監査関連文書(指導監査にあたり提出を求められる文書等)
(2)(1)に掲げる分野以外を含めて、地域によって取扱に顕著な差異があり、事業者及び指定権者・保険者の業務負担への影響が一定程度見込まれる分野について、共通化・簡素化の方策を検討する。
文書量の削減に向けた取組については、2020 年代初頭までの文書量の半減に向け、国及び地方公共団体が求める文書や、事業所が独自に作成する文書の見直しが進めれています。
第9回社会保障審議会介護保険部会介護分野の文書に係る負担軽減に関する専門委員会 資料においても国及び地方公共団体が求める文書が削減されている状況が分かります。
文書削減に併せて事業所間のデータ共有の基盤整備システムは、厚生労働省が2018年度から構築に向けた取り組みを進めてきた経緯があります。
FAXや郵送、紙の手渡しなどをやめ、ケアプランをICTでスムーズに共有できるようになればかなりの事務作業削減になります。
厚労省は既に、異なる介護ソフト間でもケアプランデータの連携が可能となるよう標準仕様を策定を行っています。
記者会見で岸田首相は、「介護現場の皆さんの負担軽減、更には介護サービスの質の向上という観点からICTを活用する。
これは大変重要な視点」と説明しています。
また、「引き続き現場の声に耳を傾けながら、介護の有り様についても、政治の立場から何をしていかなければならないのか、更なる取り組みを検討していきたい」と語っているので今後に期待したいものです。
コメント
コメント一覧 (2件)
[…] 政府がケアプランの事業所間共有をクラウドを今年度中に進める目処を発表しています。 […]
[…] 規制改革推進会議と答申についてはこのブログ「現場の負担軽減 ケアプランの事業所間共有をクラウドで」詳しく紹介していますので最近の介護分野の答申を簡単に紹介します。 […]