欲望する「ことば」「社会記号」とマーケティング
内容説明
女子力、加齢臭、草食男子、婚活、美魔女、おひとりさま、イクメン、インスタ映え…。
これら、どこからともなく現れて一般化した造語を、著者は「社会記号」と呼ぶ。
そして、それは世界の見え方を一変させ、マーケットを支配していくという。では、「ことば」はどのように生まれ、どんなプロセスを経て社会に定着していくのか。
なぜ人は新しい「ことば」を求めるのか。
本書は、マーケティングのプロと研究者がタッグを組み、それぞれの視点で「社会記号」について考察。人々の潜在的欲望をあぶり出し、世の中を構築し直す「社会記号」のダイナミクスに迫る。
目次
はじめに 社会記号が世の中を動かす
第1章 ハリトシス・加齢臭・癒し・女子―社会記号の持つ力
第2章 いかに社会記号は発見されるか―ことばと欲望の考察
第3章 ことばが私たちの現実をつくる―社会記号の機能と種類
第4章 メディアが社会記号とブランドを結びつける―PRの現場から
第5章 なぜ人は社会記号を求めるのか―その社会的要請
第6章 対談 誰が社会記号をつくるのか
おわりに 社会記号をクリティカルに捉える消費者になるには?
著者等紹介
嶋浩一郎[シマコウイチロウ]
1968年生まれ。上智大学卒。博報堂ケトル共同CEO。PR視点で企業コミュニケーションを手掛ける。本屋大賞実行委員会理事。東京・下北沢に本屋B&Bを運営
松井剛[マツイタケシ]
1972年生まれ。一橋大学教授。博士(商学)。専門はマーケティング、消費者行動論、文化社会学など(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
言葉による「フレーミング効果」
「加齢臭」という言葉があります。この言葉が広がる前から、中高年男性には若い人にはない独特の体臭はありました。
むかしからあったにもかかわらず、それはとくに明確に意識されてはいませんでしたが、「加齢臭」という言葉が広がることで気に病む人が増えるようになりました。
多くの人々の間で課題として共有されるようになり、社会学では「フレーミング」と呼んでいます。
この”病気”を命名したのは資生堂で、同社の製品開発センターが中高年特有の臭いが気になりだしたことがきっかけです。
分析の結果、「ノネナール」という物質が原因であることを突きとめます。それが「加齢臭」であると新聞記事になったことで、一躍知られるようになりました。
フレーミングでは、ことばが重要な役割をはたしていことが分かり本書で嶋さんが提唱する「社会記号」とは、正に世の中にあるさまざまな問題をフレーミングする事です。
世の中を動かすカギは欲望にあり
ある次期メディアがこぞってコギャルを取り上げ、市場にはコギャルをターゲットにした商品が供給される時期がありました。
このような一連の波及効果により、社会記号は世の中をダイナミックに動かしていきます。
新しい言葉が生まれただけこれほどまでに大きな影響を社会に与えるのは、社会記号には「人々の欲望の暗黙知」が反映されているからです。
社会に反映することばには、人々の欲望の裏付けが欠かせないと嶋さんは思っていて、メディアが意図的に社会記号を作ることは難しい時代になっています。
人間は自分の欲望を言語化することなく無自覚に日々を送っています。こうした人間の欲望のあり方について、『羊たちの沈黙』の登場人物、ハンニバル・レクター博士がとても明確な指摘をしています。
「欲望というものは自存するものではなく、『それを満たすものが目の前に出現したとき』に発動するものなのである」
ここでレクター博士はふたつの指摘をしています。
「人間は自らの欲望をそう簡単に言語化できない」人間は不器用で欲しているものを自覚的でない。
「そのくせ、人間はとんでもなく都合がいい」これまで目にしたことがないものでも、出現すると、あたかも以前から欲しかったように振る舞う。
本書 抜粋
アマゾンに負けないリアル書店の強み
著者の嶋さんは下北沢でB&Bという本屋さんを経営しています。なぜAmazon全盛のこんな時代に本屋を?とよく言われるそうです。
その問いかけに嶋さんはこう答えます。
私にとってアマゾンとリアル書店は似て非なるもので、それぞれいいところがあって、使い分ければいいと思っています。
書店という小さな空間の中で、さまざまなコンテンツを一気に見せられると、人間は好奇心をあらゆる角度から刺激され、「そうそう、これが欲しかった!」という瞬間が訪れます。
買うつもりがなかった本まで買ってしまう。そういう書店に出会うと、私たちは「いい本屋」と呼びたくなります。
人間は自分の潜在的な欲望を言語化してくれるプレイヤーに感謝し、好きになりからです。
AmazonやGoogleは「検索」という行為で「知りたい」という欲望に応えます。
しかし、その欲望は言語化できるものに限られます。言葉になっていないものを検索することはできないからです。
つまりAmazonやGoogleは外部からの刺激による欲望の起動には全く向いていないということがわかります。
ビジネスチャンスは「文句」にあり
人々がまだ言葉にできていない欲望を先取りして言語化する力を手にいれるには、どうすればいいのか。
それは「文句」にあり、人の本音は「文句」に現れるということです。
嶋さんが立ち上げメンバーに加わった「本屋大賞」も店員の素朴な「文句」がスタートとなっています。
「本屋大賞」を始める前に、関連する雑誌のPRのために書店を回ると店員から「なんであの本が直木賞に選ばれるんだ!」という“文句”があちこちから聞こえてきたのです。
書店員を集めての座談会で「じゃあどんな本が選ばれてほしいの?」と尋ねると知らない作家の本がどんどん出てきたそうです。
それなら書店員の投票で大賞を決めれば、自分が面白いと思う本を売りたい書店員さんにとっても、自分が知らない本に出会いたい読者にとってもうれしい企画です。
同じ文句が10人分あれば、そこにはビジネスチャンスがあると考えて、その欲望を受止める装置をつくればいいわかです。
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