安いニッポン「価格が示す停滞」/中藤 玲 /日経プレミアシリーズ
今回紹介する本はデフレについて分かりやすく解説された本です。
海外に旅行した時、日本より物価が安くて驚いた経験がありました。
数年前にシンガポール・台湾に訪れた時は数十年前とは違い、飲食においても場所によっては、日本より高いイメージを持ちました。
世界の物価指標に世界のビッグマック価格を使用されますが、その価格を見ても韓国やタイよりも日本が安い状況です。
物価が安いことが長い間続いた日本人は安いことに慣れそのことから起こる弊害についても感じることは少なくありません。
日本の安さを示す数字
この本で日本が海外と比較して安くなっている事例を紹介します。
日本の物価の安さ
多くの諸外国と比べて日本の物価は安くなっています。
例えばディズニーランドの入場料は、長期的には日本でも上がり、8000円を超していますが、欧米や中国では日本円で12000円程度で世界で最安の状況です。
ダイソーでも日本の110円は世界最安で、タイやブラジルなどでの価格も下回っています。同じ場所から仕入れても価格が違うには人件費のウェイトが高い様に感じます。
外食でも日本のようにワンコイン(500円相当)で満足いくランチが食べられる国はありません。以前より外食産業と福祉産業に採用出来にくい環境は賃金の安さも要因のひとつと感じます。
これは「賃金が上がらない→高いものが売れない→値上げができない」という循環が続き、長期デフレ傾向が固定化されたためだと、著者は分析している。
日本において値上げに関する世論・マスコミの伝え方にも課題があるように思います。値上げが出来ない状況による企業努力として、人件費抑制に繋がると感じます。
日本の賃金の安さ
この本では、シリコンバレーのあるサンフランシスコでは、年収1400万円の世帯は「低所得者」に分類されている事を紹介しています。
日本で1000万円超の年収があれば、高所所得者に分類され、普通に生活できます。
また、ある調査では、日本の物価においては年間800万円あれば、それ以上の幸福度が上がらない統計もあります。
30年賃金が上昇していない日本
著者は日本において賃金が上がらないその理由として2点を挙げています。
1.労働生産性が低い
日本の労働生産性は先進国中で最下位というデータを紹介しています。
長時間働いている割に成果に結びついていない状況です。
この辺りは「ムダな仕事が多い職場 」(ちくま新書) 太田 肇にも詳しく具体例が書かれていますので、また、別の機会に紹介します。
2賃金交渉のメカニズム
年功序列の考え方については少なくなりつつありますが、創業年数が長い程変化に時間を要しているのは否めません。
賃上げ交渉も以前が組合に力があった時代は労使一括交渉が基本で行われていましたが、それでも横並びなりの状況です。
優秀な人材に高い給与を提示するのも難しく、結果的に給与レンジに上限の壁ができているのが現在に賃金形態です。
それと日本人の文化としてお金のことを自ら交渉する事に慣れていない国民性もあるように思います。
安い日本が外国に買われる現在
外資の流入 買われる土地・町
日本の土地が外国人買われまわっています。
本で紹介されていましたのはニセコの例です。
ニセコのパウダースノーは世界的にも有名で観光地として、諸外国相場で見ると割安で、外資が流入しています。
ニセコでは、ホテルや外食費なども日本水準ではなく、欧米やアジアなど諸外国からの観光客が中心になっています。
ニセコの土地購入価格が札幌よりも高い状況まで発生しています。
また、世界的には水問題があり、日本の山深い森林は地下水も豊富で安価な山林が外国人に買われている状況もあります。
買われる日本の技術。
日本では電機や自動車などの産業で、最終セットを作るメーカの力が落ちてきています。強い電機のイメージーが強い私にとってシャープが買収された事や現在の東芝の状況は驚く事実です。
そのようなモノづくりを支えている日本の中小企業も買収の危機にさらされています。
日本には部品や素材などの優秀な技術を持ち競争力のある企業が多くありますが、大手が苦戦している中、技術があっても国外に販路のない中小規模の会社も苦戦しています。
中国などの企業から見て、日本企業は相対的に安く、優秀な部品メーカなどを買収する動きが加速しています。
買われる人材
日本型の採用や賃金交渉の制度では、優秀な人材を確保することができなくなっています。
日本人が外資企業から高額賃金で引き抜かれるケースは多くありませんが、日本企業の海外での採用が難しくなり、結果海外での活動が拡大しないという悪循環が生じてきています。
中国のアニメ制作会社なども、日本人の方が低賃金であるため下請発注をしてきています。
そのため、日本のアニメ制作会社が優秀な人材確保をできない状況が生じてきています。
ネットフリックスも日本のテレビ業界で掛けれない製作費でアニメ制作を始めていて、日本のアニメーション文化は海外に流出する可能性もあります。
安い日本の将来
日本の物価が安いことで、コロナ感染前には、大量の中国人やアジア諸国の人が「爆買い」をし、一時的なインバウンド需要を引き起こしていました。
ブランドバックなどの高級品は、中国人にとっては安く感じられても、日本人には高嶺の花になってしまう傾向がますます強くなる可能性もあります。
また、人材が流出し海外で戦える日本人が、日本で生活せず海外に拠点をおく流れは更に進み日本に技術や税金が入らずますます衰退してしまうことも懸念されます。
個人、企業、国は「安い日本」がいいという価値観から脱却し、施策を考えていく必要があります。
このブログでも紹介しました「シン・二ホン」でも日本の課題を多く紹介していますが、課題が分析されていれば幕末の黒船到来時の様に外圧で日本はまた新たなフェーズに向かえる可能性はあると感じています。
世界の拝金主義を目指す必要はないと思いますが、正当な商品やサービスに応じた対価を払う価値観への変化は必要だと思います。
そういう価値観になればSDGsのブログで紹介しました「ソーシャルグッド」モノやサービスに対価を払う価値観にも繋がると思います。
お勧め本紹介では今までに呼んだ本の中で自分なりのお気に入りの本を紹介したり、人に紹介してもらって今後読みたいと思っている本なども紹介していきます。
コメント
コメント一覧 (2件)
[…] 紹介本 「安いニッポン価格が示す停滞」でも紹介した通りデフレが長く続いた日本において物価と賃金が他国と比較し、上昇しなかった事も日本で働く魅力が減っている状況です。 […]
[…] このブログでも紹介した「安いニッポン価格が示す停滞」でも次つぎと安い日本が買われている現実を伝えています。 […]