具体と抽象 / 細谷 功
この お勧め本紹介を通じて本を読むことの楽しさや色々な価値観を知り、成長に繋がることを紹介したいと思っています。
本書は2019年の大ヒットベストセラーである『メモの魔力』で著者の前田裕二さんが、『抽象化』についての理解を深めるための一冊として紹介していたので購入し読みました。
また、『戦略的読書日記』においても、ユニクロの創業者柳井正氏も経営の最前線で起こる事象を具体と抽象の思考で経営されている事を紹介されており再読することにしました。
前回購読した際より、理解が深まり、著者は「抽象=わかりにくい」、抽象=悪という印象から「抽象に市民権を取り戻す」と述べてあり抽象化が分かりやすくなりました。
主な内容は、『抽象化とはどういったものか、どういう特徴を持ち、どんなメリットが生まれるか』という、抽象化に最大のスポットを当てたものになります。
『具体と抽象」の特徴
具 体 | 抽 象 |
・直接目に見える | ・直接目に見えない |
・「実体」と直結 | ・「実体」とは一見乖離 |
・一つ一つ個別対応 | ・分類してまとめて対応 |
・解釈の自由度が低い | ・応用がきく |
・応用がきかない | 「学者」の世界 |
・「実務家」の世界 |
具体は一つ一つの個別事象に対応したもので、抽象はそれらを共通の特徴で一つにまとめて一般化したものです。
数と言葉 人間の頭はどこがすごいのか
言葉や数を操れることが人間の知能の基本で言葉が無ければコミュニケーションも知識の伝達は不可能です。
さまざまな道具や紙、技術を発展させ、伝承できたのも言葉や数(記号も含む)によって記述し、記録することが出来たからです。
言葉と数を生み出すには「複数のものをまとめて、一つのものとして扱う「抽象化」という事です。
抽象化のない世界とは、数と言葉がなかったらと考えれば一番分かりやすいものです。
言葉と数を成立させるために、「『まとめて同じ』と考える」ことが不可欠です。
数の場合は、リンゴ3個も、犬3匹も松の木3本も本3冊も「まとめて同じ」と考えることから「3」という数が成立します。
同じように「言葉」も「まとめて同じ」と考えることで、鮪も鮭も鰹も鯵もまとめて「魚」と呼ぶことで「魚を食べよう」とか「魚は健康にいい」という表現が可能になります。
上記の三角形は、以下のことを象徴的に示したものです。
●複数の具体を「N:1」でまとめたものが抽象であるという関係(だから下にいくほぼ広がっていく)
●具体↔抽象という関係は、相対的に連続して一体となって階層的に存在するということ(「鮪」は「魚」の具体であり、個別の鮪の抽象でもある。あくまで相対的にどうみるかで具体か抽象か決まる)
デフォルメ
抽象化とは一言いうと「枝葉を切り捨てて幹を見る事」です。
裏を返せば、共通の特徴とは関係のない他の特徴を全て捨て去ることを意味します。
一つの事象からどんな特徴を抜き出かは、目的や方向性によって変化します。
例えば一人の人間を抽象化するにも、銭湯やトイレの場面であれば「男性か女性か」という特徴が重要で、映画館であれば「社会人か学生か子ども」という属性が重要となります。
「細部を切り捨て特徴を抽出」するのは「ものまね」や「似顔絵」などがこれにあたり特徴をデフォルメされたものです。
精神世界と物理世界
言葉はすべて目に見える物理的世界で用いる場合と比喩として精神的世界で用いられる場合があります。
たとえばボールを「投げる」という物理的動作と「あきらめて放棄する」という抽象概念と結びつけると同じ「投げる」という言葉で「仕事をなげる」などに使います。
物理的な世界と同様の世界を頭の中だけで作りあげれるのも人間にしかできない知的な芸当で「あきらめる」という心理的な状況はまわりの人の目には見えず抽象化されたものです。
マジックミラー「下」からは「上」は見えない
抽象度の高い概念は、見える人にしか見えません。
具体の世界と抽象の世界は、いってみればマジックミラーで隔たれているような感じで上(抽象側)の世界が見えている人には下(具体側)の世界は見えるが具体レベルしか見えない人には上(抽象側)は見えないということです。
「見えている」側に立ったときに、「見えてない相手」にどのように対処すべきかが大事になってきます。
人間は一人残らず抽象概念の塊りなのですが、自分の理解レベルより上位の抽象度で語られると、不快になるという性質があるので、注意が必要です。
抽象化だけでは生きにくい
よくも悪くも身の回りの事象を「解釈」することを覚えてしまった人間は、自然をありのままに眺めることがむずかしくなってしまいます。
抽象レベルの概念は固定化されやすい性質を持っており、偏見や思い込みを生み出し、判断を狂わせます。
抽象の世界に足を踏み入れてしまった人は、その世界が見えていない人にいらだちを覚えます。「表面事象」でしかものをとらえない部下に不満を持つ上司が典型です。
人類に思考という最強の武器を手に入れさせた一方で、「野生の行動力」を失わせたのも抽象という概念かもしれません。
弊害を考慮するとやはり重要なのは、「抽象化」と「具体化」をセットで考えるという事です。
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