紹介本『社会という荒野を生きる。』

目次

社会という荒野を生きる 宮台 信司

著者の宮台真司さんについて知ったのは最近の事でネット番組での対談での辛口コメントの切り口が印象的でした。

そんな中、昨年11月の自らが教鞭をとる大学での切り付け事件を知り、復帰後の対談も視聴しました。

YAHOOニュースの事件後のコメントからも、退院後言論の世界に復帰することを宣言されていて、その言論の自由に関する自身の強い意志を感じ、著者の発信の一部を知る意味でもこの本を読んでみました。

事件を経て感じたこととして、「ツイッターを僕の弟子たちに分析させています。その結果、明るい材料もあった。僕の表現に賛成の方もいらっしゃればアンチの方もいらっしゃるんですけど、アンチの方の9割が、今回の事件について『許せない』としている」と驚きの報告も。

さらに「アンチの9割が許せないと言うことは、残りの1割が本当のクズ中のクズであることがはっきりしている。自称フェミ系にも、ウヨ系にも、サヨ系にも…。そのぐらいの割合だと分かったのが、本当に良かったです」と冗談めかしつつキッパリ。

「そういう景色の中で、僕らの表現活動があるんだとお分かりいただければと思います」と言葉に力を込めた。

YAHOO ニュース 抜粋

本書における著者宮台さんの言論については必ずしも意見が一致するわけではありません。

ただ、2015年発刊で少し時代背景もコロナ前ということを差し引いても、自分にない視点や社会学の見識は参考になりました。

目 次

はじめに

●「社会という荒野を生きる。」とは何か

第一章

なぜ安倍政権の暴走は止まらないのか
― 対米ケツ舐め路線と愚昧な歴史観
天皇皇后両陛下がパラオ訪問に際し、安倍総理に伝えたかったこと
安倍総理が語る「国際協調主義に基づく積極的平和主義」の意味とは
戦後70年「安倍談話」に通じる中曽根元総理の無知蒙昧ぶりとは
盛り上がった安保法制反対デモと、議会制民主主義のゆくえ
安保法案の強行採決に見られる日本の民主主義の問題点とは

第二章

脆弱になっていく国家・日本の構造とは
― 感情が劣化したクソ保守とクソ左翼の大罪
なぜ三島由紀夫は愛国教育を徹底的に否定したのか
「沖縄本土復帰」の本当の常識と「沖縄基地問題」の本質とは
大震災後の復興過程で露わになった日本社会の「排除の構造」とは
除染土処理の「中間貯蔵施設」建設計画はすでに破綻している!?
なぜ自民党はテレ朝・NHKの放送番組に突然介入してきたのか
憲法学の大家・奥平康弘先生から学んだ「憲法とは何か」について
広島・長崎原爆投下から70年と川内原発再稼働の偶然性とは

第三章

空洞化する社会で人はどこへ行くのか
― 中間集団の消失と承認欲求のゆくえ
ISILのような非合法テロ組織に、なぜ世界中から人が集まるのか
ドローン少年の逮捕とネット配信に夢中になる人たちの欲望とは
元少年Aの手記『絶歌』の出版はいったい何が問題なのか
地下鉄サリン事件から20年。1995年が暗示していたこととは
「お猿のシャーロット騒動」と日本のインチキ忖度社会とは
戦後日本を代表する思想家・鶴見俊輔氏が残したものとは何か

第四章

「明日は我が身」の時代を生き残るために
― 性愛、仕事、教育で何を守り、何を捨てるのか
なぜ日本では夫婦のセックスレスが増加し続けているのか
労働者を使い尽くすブラック企業はなぜなくならないのか
「仕事よりプライベート優先」の新入社員が増えたのはなぜか
「すべての女性が輝く社会づくり」は政府の暇つぶし政策なのか
ISILの処刑映像をあなたは子供に見せられますか
青山学院大学学園祭の「ヘビメタ禁止」騒動は何が問題だったのか
「ベビーカーでの電車内乗車」に、なぜ女性は男性より厳しい目を向けるのか

なぜ三島由紀夫は愛国教育を徹底的に否定したのか

本書で知った内容として三島由紀夫が「愛国教育」に反対していたということと、天皇主義者の右翼であったが、世間一般でイメージされている右翼とは違ったようです。

巷ではフランス革命に遡り右翼と左翼を説明される機会が多いですが、本来はプロテスタント神学者シュライエルマッハーによる主意主義(右)と主知主義(左)の区別から、中世スコラ神学の弁神論(なぜ悪はあるのか)を経て、初期ギリシャの哲学遡る様です。

右翼(主意主義)とは、損得勘定を超えて、内から湧き上がる力(ラテン語でヴィルトゥス→英語でヴァーチュー)を愛でる立場です。

僕の言葉では〈自発性〉ならぬ〈内発性〉を尊ぶ立場が右翼です。

シュライエルマッハーの説明が分かりやすい。

なぜ悪はあるのか。

左(主知主義)は全知全能である神の計画だと理解する。

右(主意主義)は、神は全知全能なのだから、人知を超えて端的にソレ(悪)を意志すると理解する。

端的な意思を尊ぶのが右。

本書 抜粋

2500年前、ギリシャの人々は損得勘定を〈自発性〉を蔑み、内から湧き上がる〈内発性〉を尊びました。

アリストテレスは、「賞罰(損得)によって維持される秩序」と「内から湧く力で維持される秩序」に整理し、後者に軍配を上げました。

ポリスが生き残ったのは、損得勘定を超えて貢献心を発揮するゾーオンポリティコン(政治的動物)が存在したからです。

ルース・ベネディクトは、有名な『菊と刀』で、日本兵は狂信的ナショナリスト(愛国者)だと思っていたら、まったく違ったと書いています。

日本独特の、「罪の文化」ならぬ、「恥の文化」を見出したわけです。

要は、周囲の視線を気にして、愛国ブリッコをしていただけで、三島は、教養人だから、こうした分析を熟知しています。

「損得勘定ならぬ、内から湧き上がる力」以外は実際には愛国に役立てないというのが三島の考えでした。

ちなみに、そんな〈内発性〉を支える中核こそ、天皇への愛と尊崇の感情だと三島は考えたのですね。

三島が生きていたら、昨今の「愛国教育の義務化」への動きをどう見たか。

彼は道徳教育一般がダメだとは言っていません。

本書 抜粋

オウムー奪われた「共同体にとっての価値」の代替的回復

オウム真理教の事件が起こったとき、前代未聞の国家転覆計画に驚いた記憶と、一般的にエリートとされる人々が多く加わっていたことに驚きました。

著者は、そこに見られたのは「目標に到達できなかった」という挫折感ではなく、専ら「目標に到達したのに自分は輝いていない」という〈こんなはずじゃなかった感〉だと言います。

社会思想家アクセル・ホネットの「愛による(個体性の)承認」「法による(権利の)承認」「連帯による(共同体にとっての価値)承認」の枠組みを用いて動機の背景を分析しています。

「連帯による(共同体にとっての価値)承認」の認識不足が〈代替的な地位達成〉に向かう動機づけを与える、ということです。

エリーㇳ教育を受けて社会の中で〈共同体にとっての価値〉を承認して貰えると思ったのに全てダメで、世俗の「外」の宗教に〈代替的な承認チャンス〉を探すようになったのです。

心理学と社会学はどこが違うか

心理学

現象をもたらす前提や原因を心理メカニズムに帰属する。

  • 「心がこうなっているからこうした」
  • 「なぜアノ人ならぬコノ人がようなったか」

心理学者は、問題を改善すべく、薬理療法やカウンセリングで「症状」を改善します。

社会学

現象をもたらす前提や原因を社会メカニズムに帰属します。

  • 「そうした心理作用が働くのは社会がこうなっているからだ」

社会学者は、「心の持ち方改善」に注力しすぎると、「心の持ち方」の背景にある「社会の在り方の是非」という問題が覆い隠されると見ます。

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