介護 2024年度改定「ケアプラン有料化」議 論

このブログ「介護役立情報」では、事業所選びや介護に携わる仕事についても紹介しています。

今回は令和4年4月13日に開催された国の財政を話し合う審議会(財政制度等審議会・財政制度分科会)の会合で改めてを「ケアプラン有料化」が提言されたことを紹介します。

ケアプラン有料化は、以前から議論されており、居宅で介護保険サービスを受ける時の居宅介護計画(通称ケアプラン)について有料化を改めて財務省が提言しました。

ケアプラン有料化について

審議会(財政制度等審議会・財政制度分科会)の会合の資料「社会保障」によると、ケアプラン有料化について財務省は従来通りの持論を繰り返しています。

ケアマネジメントの利用者負担の導入等

  • 居宅介護支援(ケアマネジメント)については、要介護者等が積極的にサービスを利用できるようにする観点から、利用者負担をとらない例外的取扱いがなされてきた。                               しかしながら、介護保険制度創設から20年を超え、サービス利用が定着し、他のサービスでは利用者負担があることも踏まえれば、利用者負担を導入することは当然である。
  • そもそも、制度創設時、ケアプラン作成は「高齢者の自立を支援し、適切なサービスを確保するため、…そのニーズを適切に把握したうえで、ケアプランを作成し、実際のサービス利用につなぐもの」とされていたが、その趣旨にそぐわない実情も⾒られる。
  • 具体的には、ケアマネ(居宅介護支援)事業所の約9割が他の介護サービス事業所に併設しており、「法人・上司からの圧力により、自法人のサービス利用を求められた」という経験を⾒聞きしたケアマネジャーが約4割いるなど、サービス提供に公正中立性の問題が存在することが窺える。
  • ケアマネジャーは、インフォーマルサービスだけでなく、介護保険サービスをケアプランに入れなければ報酬を受け取れないため、「介護報酬算定のため、必要のない福祉用具貸与等によりプランを作成した」ケアマネジャーが一定数いることが確認されている。
  • 利用者が自己負担を通じてケアプランに関心を持つ仕組みとすることは、ケアマネジャーのサービスのチェックと質の向上にも資することから、第9期介護保険事業計画期間から、ケアマネジメントに利用者負担を導入すべきである。
  • また、福祉用具の貸与のみを行うケースについては報酬の引下げを行うなどサービスの内容に応じた報酬体系とすることも、あわせて令和6年度(2024年度)報酬改定において実現すべきである。「社会保障資料P79抜粋」

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ケアプラン有料化で質は確保できるか

2019年末に決着した2021年度の介護保険制度改正論議では、介護保険サービスを受ける際の前提となるケアプラン(介護サービス計画)の有料化が一つの焦点となっていました。

2024年度改正でどう対応するか、政府は今年の年末に判断を下す予定です。

その為、「サービス利用が定着し、他のサービスで利用者負担があることも踏まえれば、利用者負担を導入することは当然」と財務省は主張し、次の第9期(2024年度〜2026年度)からの実現を強く求めています。

財務省はケアプランの有料化を通じて、介護給付費の抑制に繋がると主張しています。

さらにケアプラン作成を担う専門職のケアマネジャー(介護支援専門員)の間で有料による競争原理が働き、結果的にケアマネジャーの質が上がる可能性を示しています。

しかし、一般的にはケアプランを有料化にしたとしてもそれによる、給付抑制のインパクトは小さいと考えられてきました。

現行ケアプランの課題

ケアマネジャーは介護を必要とする高齢者の意思決定を支援する「代理人機能」という本来の役割を持っていて、ケアプランの有料化有無とは別に、幾つかの課題を抱えています。

具体的には、代理人機能を阻害している要因として、

  1. 介護保険サービスをケアプランに組み込まなければ、ケアプラン作成に関わる介護保険の報酬を受け取れない「報酬体系の問題」
  2. ケアマネジャーの勤める居宅介護支援事業所が他の介護保険サービス事業所に併設されており、利用者の代理人機能が発揮されにくい「独立性の問題」

理念において「公正・中立」を謳うのであれば、居宅介護支援事業所も包括支援センターの様に市町の委託等で運営する必要があるように思います。

制度的な課題が大きく、ケアマネジャーやケアマネジメントの質の問題を考える上で本質的な論点は有料化ではないように思います。

結果2019年末に決着した制度改正論議ではケアプランの有料化が見送られ、2つの制度的な課題は残されたままとなっています。

ケアプラン有料化の論点(1)~財源論からの視点~

自己負担を導入した場合の給付抑制効果は500億円程度

ケアプランを有料化した場合の給付抑制効果をシュミレーションします。

ケアプランを有料化した場合、仮に利用者に一律で1割負担を導入した場合1か月当たり1000円~1500円の自己負担となります。

現在全国でケアプランの作成費に相当する居宅介護支援費は5,000億円前後であり、仮に一律で1割負担を導入したとしても、全体の給付抑制効果は約500億円程度にとどまります。

現在ケアプラン作成費を除く他の介護保険サービスは所得に応じた2~3割負担を導入しており、これに準じる形でケアプランの有料化を実施したとしても、給付抑制の規模は若干増えますが、約10兆円に及ぶ全体の介護総予算(自己負担を含む)に比べれば、ごくわずかです。

給付抑制を目的とするのであれば、例えば自治体へのインセンティブ交付金のようにケアプランの有効性へのインセンティブの考え方のようなものが出来れば効果があると思います。

ケアプラン有料化は一つの選択肢ですが、利用控えの懸念や自己作成者の増加というような別の課題も想定されます。

有料化によるマイナス面の予想(1)~利用控えの懸念~

有料化による第一の課題は本来サービスが必要な方の利用控えへの懸念です。

ケアプラン有料化は低所得者を中心に介護保険サービス全体の利用控えが起きる可能性が想定されます。

利用控えによる給付抑制は約500億円よりも大きくなる可能性はありますが、必要な方に適切に介護保険サービスが届かなくなるリスクがあります。

入所施設やショートステイ利用者の食費・居住費の助成制度の様に世帯所得によって助成という考え方もありますが、それでも利用控えの恐れはあるように思います。

2019年末に決着した制度改正論議においても「自己負担が生じると低所得者が利用を控える恐れがある」「ケアマネジャーに対して利用者が強く迫るようになり、過剰なサービス利用に繋がる」といった慎重な意見が示されています。

その他の慎重論には、以下のような声があります。

  • 所得に応じた自己負担割合の引き上げや補足給付の見直しなど、「自己負担増」が続いている。
  • 介護保険の入り口を狭める。

有料化によるマイナス面の予想(2)~自己作成者の増加による市町村の負担増~


次に財政面予測される課題は自己作成者(以下セルフプラン)が増加することによる給付管理を担う市町村の事務負担が増大する事です。

実際はセルフプランは事務負担が煩雑で難しい点などを踏まえると、ケアプラン有料化で自己作成者が急増するとは考えにくいですが少し増えたとしても給付管理を担う市町村の事務負担は償還払いを含め増えます。 

またセルフプランが増えると利用者・家族が過度にサービスに依存するケースの増加し、ケアプラン有料化が給付費の増加に跳ね返る危険性もあります。

ただ、これは一方的な見方でセルフプランの場合、本人または家族がサービス担当者会議を開催し、給付管理は保険者(市町村)が担うことになり、過度にサービス依存したケアプランを一定程度抑制できる仕組みなると思われます。

但し給付管理の業務が増え、増員という財源が必要ないなる可能性もあります。

ケアプラン有料化の論点(2)~質の観点~

コストと質を同時に議論している財政審の問題点

過去の財政審の案には、複数の事業者のサービスを盛り込んだケアプランを作成することをケアマネジャーに義務付けることで、競争原理を期待しています。

介護保険制度は創設時、部分的に市場原理を採用した経緯はあります。

2000年に介護保険サービスがスタートした時点から利用者はケアマネジャー、サービス事業者とそれぞれ契約する仕組みを採用しています。

利用者の選択肢を広げるため、株式会社やNPOなど幅広い業態の市場参入も認め、競争原理を取り入れています。

一方、価格や施設基準などは、国がコントロールしているため完全な市場経済ではなく、市場経済と計画経済の中間を意識する「準市場」の考え方になっています。

また、日本ケアマネ協会が指摘する通り、財政審の案は現在の介護報酬体系と符合しなかった面が多くあります。

3年に一度の介護報酬改定に際して、厚生労働省は「人員を手厚くしたら加算、満たさなかったら減算」「認知症の人を受け入れたら加算」といった形で、数多くの加算や減算を付けることで事業者の経営を誘導し、質を高めようとしています。

この価値観は「加算を取得していない事業者は質が悪く、加算を取得している事業者は良質」という前提です。

財政審の価格市場主義で比較すると加算を取っていない、あるいは減算措置を受けている事業者が選ばれるようになります。

言い換えれば「加算を取っていない質の悪い事業者」が選ばれやすくなる危険性があった。

財政審の提案は「質の向上」と言いつつ、実態は「コストの抑制」の問題を論じているという側面があります。

もちろん、財政再建を重視する財政審がコスト抑制に繋がる制度改正を提唱するのは止むを得ず、質とコストの問題は切り離して考えていく必要があります。

ケアプランや介護サービスにおける最終的な評価は本人のQOLが深く絡む分、その評価は難しいと言わざるを得ず、質の面だけで見れば「介護保険サービスを多く入れたケアプランが悪い」とは一概に言えない難しさがあります。

老施協 居宅介護支援の利用者負担の導入を一部容認

全国老人福祉施設協議会は、8月5日に厚生労働省へ介護保険制度等に見直しに関する要望書 を提出しました。

その中で「ケアプラン有料化」に関する考え方を以下の様に述べています。

  • 居宅介護支援事業所のケアマネジメントに係る費用に関しては、介護が必要になった方がいつでもどこでも誰でもサービスを使えるようにするために、全額公費が望ましい。
  • しかしながら特別養護老人ホームでは介護支援専門員が人員配置基準に含まれていることから、入所後は実質負担しているになるため、公平性の面からの議論は必要
  • 例えば、仮に自己負担を導入する場合は、加算の有無で費用に差が出ることがないよう1割負担でなく定額制とすることも考えられる。

介護支援専門員協会 ケアプラン有料化に反対

介護支援専門員協会は、令和4年4~5月に居宅介護支援事業所に所属する当協会会員2,000名、市町村(保険者)500件、地域包括支援センター500件を対象に標記調査を行い、報告書をとりまとめました。

主な反対意見は以下の通りです。

  • 「早期発見・早期対応が困難になる」
  • 「利用者・家族の要求がエスカレートする」
  • 「対等な立場での説明・支援が困難になる」などです。

そのうえで、「利用者負担を導入すれば居宅介護支援へのフリーアクセスを損ない、早期発見・早期対応も難しくなる」と問題を提起しています。

「公正中立を旨とするサービスのあり方を根底から覆すリスクがある」とも指摘しています。

まとめ

今回の審議会(財政制度等審議会・財政制度分科会)の「ケアプラン有料化」の資料で事例として出された福祉用具貸与のみのケアプランの課題は制度的な問題でケアプラン有料化と別の課題です。

2022年度の改正で示された「サ高住入居者等へのケアプランの点検」などの方がケアマネジメントの質向上に効果があるように思います。

給付抑制効果を高めるのであれば、現在各保険者で進めらているケアプランチェック機能を更に高め、過剰サービスの抑制と特定事業所加算のような人員のみ評価でない、ADL維持やLIFEのようなインセンティブ加算の仕組みが効果があるよう思います。

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