『自由と成長の経済学』「人新世」と「脱成長コミュニズム」の罠 /柿埜 真吾
この お勧め本紹介を通じて本を読むことの楽しさや色々な価値観を知り、成長に繋がることを紹介したいと思っています。
この本はこのブログで紹介した「人新世の資本論」について真っ向から否定している本です。
気鋭のマルクス研究者である斎藤幸平の『人新世の「資本論」』は、10万部超えのヒットを続けています。
成長を前提とした資本主義的な枠組みでは環境保全は不可能だと指摘し、「脱成長コミュニズム」の道しか人類にはないと説くのが同書です。
それに対して「人新世」(人類の経済活動が地球を破壊する時代)というウソがまことしやかに唱えられていると述べているのが今回紹介する『自由と成長の経済学』です。
社会課題を多面的・多角的に考察するには、社会課題がもつな側面を多様な角度やいろいろな立場から捉える必要があります。
既有の知識や新たに獲得した知識や情報を基に自ら分類や比較,関連付けなどの思考を繰り返すことで学びが深まります。
この本を読むきっかけは、News Picksの『HORIE ONE』での堀江貴文さんと著者 柿埜真吾さんとの対談です。
『人新世の「資本論」』の問題点を対談で聞き多面的・多角的に考察する上で読んでみつことにしました。
人新世(じんしんせい、ひとしんせい)はウィキペディアで以下のようにまとめられています。
人新世(じんしんせい、ひとしんせい)とは、人類が地球の地質や生態系に与えた影響に注目して提案されている、地質時代における現代を含む区分である。
オゾンホールの研究でノーベル化学賞を受賞したパウル・クルッツェンらが2000年にAnthropocene(ギリシャ語に由来し、「人間の新たな時代」の意)を提唱。
国際地質科学連合で2009年に人新世作業部会が設置された。
和訳名は人新世のほかに新人世(しんじんせい)や人類新世がある。
人新世の特徴は、地球温暖化などの気候変動、大量絶滅による生物多様性の喪失、人工物質の増大、化石燃料の燃焼や核実験による堆積物の変化などがあり、人類の活動が原因とされる。
人新世という用語は、科学的な文脈で非公式に使用されており、正式な地質年代とするかについて議論が続いている。
人新世の開始年代は様々な提案があり、12,000年前の農耕革命を始まりとするものから、1960年代以降という遅い時期を始まりとする意見まで幅がある。
人新世の最も若い年代、特に第二次世界大戦後は社会経済や地球環境の変動が劇的に増加しており、この時期はグレート・アクセラレーション(大加速)と呼ばれる。
ウィキペディア 抜粋
『人新世の「資本論」』は何が問題か?
本書で著者は、『人新世の「資本論」』で、資本主義では必ず経済成長が起き、それが原因で温暖化による環境破壊、あるいは自然災害もたらす要旨を説明します。
そして、誤った資本主義をやめて資源をみんなで共有し管理する共産主義を目指す『人新世の「資本論」』の内容を、歴史を紐解き、事例を用い反論を説明しています。
これまで、資本主義が世界金融危機などの危機に遭遇するたびに、マルクス主義者は「資本主義を廃絶し、いまこそ、マルクスの『資本論』に学べ」と主張します。
著者は、本書のインタビューで
『「脱成長コミュニズム」が盛りあがっている理由を挙げるならば、今のコロナ禍による閉塞感に満ちた息苦しい社会とは違う希望のある場所に行きたい、そんなふうにみんなが思っているからなのかもしれません』と述べています。
また、本書で脱成長や共産主義的な考えの根底にはゼロサム的な発想があることを事例をあげ説明されています。
ゼロサム的な発想とは、「誰かの得は誰かの損である」という発想です。
ひとりだけが利益を得るのはズルいから、資源を社会全体で均等に配分して統治していこう、という結論に至ります。
この価値観は、資本主義成立以前のはるか昔からある人類の根源的な倫理観に直結していると論じています。
マルクス主義的なアイディア自体は人類にとって非常に馴染みが深いものです。
「脱成長コミュニズム」では、「資本論」ではなく、「資本論」を書き終えた後のマルクスの「遺稿」に学んでいます。
新人世への反論として、本書では、資本主義はゼロサムゲームでなく、一部の人間が豊かになるために、他の誰かを犠牲にしていない事実を数字で説明されています。
資本主義自由経済により競争、分業により生産性向上してパイを増やすべきという主張を、歴史を紐解き、事例を用いて説明しています。
経済成長を止めて全体のパイを減らした場合、弱者はよりいっそう貧しくさせる「罠」であると説明されています。
本書では、長い人類史から見れば、最近、200年というごくわずかな期間に、資本主義が成功した事実等を以下のようにエビデンスに基づいて紹介しています。
- 感染症・周産期異常・栄養失調による死亡率を大きく引下げた。
- 世界の気象関連災害の死亡者を激減させた。
- 世界の貧困率を大きく引下げた。
- 世界の平均寿命を大きく引き上げた。
- 世界の識字率を大きく引き上げた。
- 世界の不平等度を大きく引き下げた。 等々
このように資本主義が成功を可能にしたのは、単に技術の発展だけではありません。
発展した大きな要因は、所有権を尊重し、新規参入等の競争制限的規制を緩和又は廃止し、競争原理を取り入れtことです。
ここ平成30年間を日本では失われた30年と言われ成長しない閉そく感や環境問題が世界的な課題となったことも「人新世の資本論」のブームのひとつと考えられます。
地球温暖化問題の課題解決について主義やアプローチに違いがあっても、課題解決の必要性は本書でも述べてあります。
それに対する最善の方法は、斎藤が否定している「炭素税か炭素排出権の導入」と本書では説明しています。
この導入により、炭素をより多く排出する財・サービスの価格は高くなり、人々はその高くなった財・サービスの消費を減らすため、炭素排出量は減少するという考え方です。
著者は、本書のインタビューで以下ようにも述べています。
そもそも環境問題というのは経済学的にいうと外部性の問題なのですね。
簡単に説明すると、汚染物質を排出して環境に負担をかけている人たちや企業がコストを払っていない状態を外部不経済と言いますが、これは典型的な市場の失敗です。
この市場の失敗を解消するために市場経済の原理に則って、環境に負荷をかけている人たちから税金などのコストを徴収することができればかなりの問題は改善できるのです。
以前は赤潮が問題視されていた瀬戸内海では水質改善の結果、今はむしろ貧栄養化問題がいわれているくらいです。
このように資本主義体制の先進国では過去の甚大な環境汚染の大部分が解消されたので、今度は温暖化に端を発する気候変動問題を次の課題として設定しているのです。
温暖化について真剣に議論している学者が出している様々な被害の推計を参考にしつつ、炭素税のような形でコストを負担してもらいながら、どういった行動を取るかを各人に委ねる。
こういった穏健な温暖化対策こそが望ましい社会をつくるひとつの鍵になると考えています。
読書人インタビュー 抜粋
社会主義の大失敗と資本主義が人類を救ってきた歴史、自由な生活と経済成長がコロナ禍と貧困・格差、地球環境問題を解決できることを示した一冊でした。
難し主義について述べる知識はありませんが、本書のインタビューで柿埜さんが、例えている生活で言うとゴリゴリの体育も嫌ですが、みんなが繋がらなさ過ぎる生活も多少窮屈でも寂しい気もします。
斎藤氏が描く未来像はいうなればゴリゴリの体育会系の部活動とその寮での生活を強制される状況だとイメージすれば理解しやすいと思います。
個人的にはこういったしんどい社会で暮らしたくないですね(笑)。
ご紹介いただいたように、資本主義社会というのはみんなが繋がらない社会であって、それを嫌う人たちが斎藤氏が描いたコミュニティでの生活に憧れるのでしょう。
ですが、みんなが繋がっている社会というのはプライバシーのない、窮屈な社会でもあるのです。
読書人インタビュー 抜粋
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