紹介本 『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』

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父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話 / ヤニス・バルファキス

この お勧め本紹介を通じて本を読むことの楽しさや色々な価値観を知り、成長に繋がることを紹介したいと思っています。

今回は、十代の娘の「なぜ、世の中にはこんなに格差があるの?」というシンプルな質問をきっかけに、元ギリシャ財務大臣の父が経済の仕組みを語る形式です。

「宗教」や「文学」「SF映画」など多彩な切り口で、1万年以上の歴史を一気に見通し、「農業の発明」や「産業革命」から「仮想通貨」「AI革命」までその本質を説いています。

この本の3つのおすすめ

  • すべては余剰からはじまった
  • 市場社会では「経験価値」ではなく「交換価値」を優先する
  • すべてを民主化する

すべては余剰からはじまった

なぜ資本主義においてこんなに「格差」があるのか。その答えは1万年以上前のメソポタミアに遡るります。

すべてのきっかけは、土地を耕さなければ生きていけない人たちが農耕を発明したことです。

このことはサピエンス全史においても農業革命として書かれています。

試行錯誤を経て農耕技術が向上する過程で、経済の基本となる要素、「余剰」が生まれました。

余剰は最初は単純な意味で余った作物が余剰で、将来の蓄えになり、災害で作物が収穫できなかったときに備えました。

今までの狩りや漁、自然の木の実や野菜の収穫はどんな達人でも腐ってしまう為余剰を生み出しませんでした。

これがとうもろこしや米や麦のように保存できる穀物との違いで人類を永遠に変える数々の制度を生み出した。

それが文字、債務、通貨、国家、官僚制、軍隊、宗教というものです。

文字 それは余剰を記録するためのもの

メソポタミアで世界最古の文字が誕生したのは、農民が共有倉庫に預けた穀物の量を記録するためでした。

記録があればそれぞれの農民が何をどれだけ共有倉庫に預けたか証明できたのです。

債務、通貨、国家

この記録は、債務(借金)と通貨のはじまりでもありました。

労働者への支払いの際、主人は労働時間を穀物量に換算して貝殻に刻んで渡しました。

労働者は収穫後に貝殻と穀物を交換することもできたし、貝殻をほかの人がつくった作物と交換することもできたのです。

取引に使用するために通貨が出来たのではなく、メソポタミアでは、農民がどれだけ支払いを受けられるかを記録するためにありもしない仮想の硬貨の量を書き入れていて、今でいう仮想通貨みたいなものです。

「クレジット」という言葉の語源はもともと「信じる」という意味のラテン語「クレーデレ」という意味でみんなが貝殻を通貨として信用しました。

将来約束の穀物を受け取れるという「信用」がなければならず、とても力のある誰かや何かが保証してくれること、例えば神託を受けた支配者や高貴な血筋の王様というように権威付けの存在として、国家が登場します。

余剰がなければ国家は存在しなかったとも言えます。支配者を守る警官、国を運営する官僚、そして余剰作物を狙う外敵から国を守る軍隊も生まれなかったでしょう。

じつは、聖職者も同じで、農耕社会が土台となった国家の余剰配分は偏っていました。その状態を庶民に納得させるために、「支配者だけが国の権利を持っている」と信じさせる聖職者が必要とされました。

農耕は、自然の恵みだけで食べていける地域では発達しなかった。農耕から生まれた余剰が、やがてグローバルな格差、社会の中での格差へとつながっていくのです。

市場社会では「経験価値」ではなく「交換価値」を優先する

経験価値と交換価値は対極にあります。それなのに今はどんなものも「商品」だと思われていてすべての物に値段がつきます。

このブログで紹介した「それをお金で買いますか」行き過ぎた市場主義における道徳的価値観の限界事例が多く紹介されています。

市場社会では交換価値が経験価値に優先します。

目の前で恐ろしい山火事が起きていたとします。悲劇的な状況ですが、経済はそこからも恩恵を受けてしまいます。

消火飛行機や消防車が消費する灯油や軽油は石油会社の売上になり、燃えた家や電線の復旧で建設業者が潤います。

市場社会では、環境保護については恐ろしいほどに軽視されてしまいます。

木や微生物に交換価値がないのであれば、市場社会にとっては何も意味がないものとなってしまいます。

環境破壊から交換価値が生まれるかぎり、迅速に対処することができない課題があり、現在の温暖化などの問題が発生します。

すべてを民主化する

テクノロジーや金融政策の決定過程の民主化が必要とされるように、著者は地球資源と生態系の管理も民主化しなければならないと考えています。

権力者が好むのは「すべての商品化」であるのに対して、本書の著者が主張するのは「すべての民主化」です。

チャーチルのジョークで「民主主義はとんでもなくまずい統治形態だ。欠陥だらけで間違いやすく非効率で腐敗しやすい。だが、他のどの形態よりもましなのだ」と著者は引用してます。

だ。このふたつの意見の衝突が、もっとずっと先の未来を決めることになっていくと予測しています。

民主主義は不完全で腐敗しやすいことも承知の上で富を持つ者の支配者の資本主義よりいいと以下の例で述べています。

このブログで紹介した『22世紀の民主主義』では、民主主義の非効率さをテクノロジーで解決する提案がなされていて興味深い内容です。

民主主義ではひとり1票の投票権があるが、市場ではたくさんの富を持つ者の支配権が大きくなります。

たとえば今地球環境の課題である温暖化について二酸化炭素の排出問題もお金持ちに対策をゆだねたとしましょう。

お金持ちは排気量を減らすと利益が減り、海抜が上がっても影響を受けなければ、海抜の低い場所に住む何百万という人の家や畑が海面下に沈むこともいとわないでしょう。

民主化でなければ地球を守ることも出来ないと述べています。

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