厚生労働省は、介護サービス業や小売業などで相次ぐ職員の転倒・腰痛の対策強化に向けた検討会を立ち上げました。
増え続ける介護現場での転倒・腰痛による労災状況まど紹介します。
転倒災害・腰痛災害の発生状況と課題
第1回検討会の転倒災害・腰痛の発生状況と課題の資料によると、労働災害の推移は年々減少傾向にある中、業種別労働災害の推移においては、小売業・社会福祉施設の現場での労働災害が増加傾向であることが伺えます。
特に社会福祉施設においては、第13次労働災害防止計画の期間において労働災害が37.8%増加しています。
事故のトレンドとしては設備におけるリスク→行動によるリスクに変化しています。
具体的には、作業方法などに起因する「行動災害」(例えば介護における移乗介護中等)が増加しています。
職場環境の問題として対策を進める必要ある問題提起されています。
介護現場で腰痛が起こる主な要因
介護現場で腰痛が起こる原因は、主に次の3つだと言われています。
■動作的要因
重いものをひんぱんに持ち上げる、無理な姿勢で作業するといった動作による、腰への過度な負担・負荷
■環境的要因
職場が寒くて冷える、ベッドなどの配置が悪く移動しづらい、照明が暗く足元の様子を確認しづらいといった職場の環境に関係すること
■個人的要因
年齢や性別、体格、筋力、既往歴、基礎疾患の有無など、個人的な属性に関わること
上記の3つのほかに、職場の人間関係によるストレスなど、心理・社会的な要因も関係していると考えられています。
また、慢性的な人手不足でスタッフそれぞれの業務量が多すぎるなど、一人ひとりのスタッフの疲労蓄積が大きくなっているケースが考えられます。
多くの腰痛において、原因は1つだけではなく、これらのうち複数の因子が重なって症状を引き起こすと考えられます。
腰に負担がかかりやすい姿勢と動作
介護職は、腰痛を引き起こす「動作的要因」が生じやすい職種といえます。
以下のような姿勢・動作が腰痛を招きやすいくする動作的要因です。
前かがみ・中腰
介護者は、要介護者のおむつ交換や体位交換、入浴介助、トイレ介助、シーツ交換などで前かがみ、中腰になる機会が多く、その都度、腰に負担がかかります。
腰の捻り・無理な姿勢
たとえば介護者が要介護者の隣に座って介助を行う食事介助では、要介護者の方に体を向けることで必然的に腰をひねる姿勢になるため、腰に負担がかかります。
このほか、移乗介助や入浴介助、食事介助等も、腰をひねる動きが多い業務です。
長時間の立ち仕事・同じ体勢
長時間にわたって立ったまま、あるいは座ったままなど、同じ姿勢でいることも腰に負担をかけます。
介護職の場合、たとえば長時間休憩を取らずに立ち仕事を続けるケースなどが当てはまります。
入浴介助などで腰に負担のかかる姿勢を長時間行うこともあります。
持ち上げる
要介護者が車椅子からベッドに移動する際や入浴、トイレの際などに、要介護者を抱えて持ち上げる移乗介助は、介護業務にはつきものです。
起き上がり、移乗介助など、腰に大きな負荷がかかり、腰痛につながりやすい動作です。
職場における転倒・腰痛等の減少を図る対策の提言
第1回検討会の「職場における転倒・腰痛等の減少を図る対策の提言」として以下のような提言がなされています。
転倒・腰痛等を防止するために社会が目指すべきビジョンについて
安心・安全に誰もが持続的に活躍できる職場の実現
転倒・腰痛等を取り巻く課題や背景要因の的確な把握
【課 題】
- 発生した労働災害情報の深掘り
- 職場において転倒・腰痛等の予防の取組が進まない要因や企業・労働者が求めるニーズの把握
- 転倒・腰痛等の予防に効果がある取組のエビデンスの収集 といった把握や収集を効果的に推進するための調査・研究が十分に行われていない。
【提 言】
転倒・腰痛等の予防対策の普及を効果的にするため、物理的要因や心理的・内的要因なども含む災害情報に基づくリスク要因の深掘りや、災害予防を促進する要因・阻害する要因の把握など、エビデンス等を収集・調査研究すべき。
企業・労働者の行動変容を促すための情報発信と関係者との連携について
【課 題】
- 「労働災害防止」の切り口だけでは企業や労働者の行動変容を促すことが難しい。企業にとっては転倒・腰痛等防止に取り組むメリット・デメリットがわかりづらく、企業価値を生み出すイメージがない。また、働く人にとっても、職場での受動的な取組として捉えられやすい。
- 小規模な介護施設やスーパーなどが自力で取組を推進することは困難である。現状では、関係者間の繋がりも弱く、効果的にアプローチする専門家がいないため、取組の推進力となる主体がいない。
- 行政の視点が「指導」に偏重しており、企業の自主的な取組を促しにくい。
【提 言】
- 現状分析とその周知を十分に行った上で、ポジティブなキーワードを用いて転倒・腰痛等予防の取組を推進すべき(安全衛生対策を経営上のコストと捉えている企業にも経営に有効であることを認識・経営に反映してもらうことが必要。)。
- 関係機関・関係団体との連携を強化するとともに、周知啓発に協力してもらえる専門家を育成・活用することが必要である。
- 行政機関の意識を「指導」から「育成」にシフトしていく意識改革が必要
企業、労働者、関係団体の主体的な取組の促進と必要な制度等の見直しと新たな切り口による取組について
【課 題】
- 行政の今までの取組は、プロセスや手法に問題があり、うまくいっていない。企業の立場だとメリットがないと取り組まない。
- 労働安全衛生法令が現下の状況にキャッチアップしていない。
- いろいろツールを作っても、どのように普及するかという視点が欠けており、活用されていない。労働者には届いていない。
【提 言】
- これまでの行政における取組状況と効果を検証し、転倒・腰痛予防対策を効果的、実効的に推進するために、効果のあった取組については継続しつつ、低調なものについては見直しを推し進めるべき。
- 現場の実態に即した、企業の主体的取組による災害予防の取組や効果の高い予防対策が促進されるよう、安衛法令をはじめ現行制度の見直しを検討すべきではないか。
- 企業の自主的な取組を促進させる支援、インセンティブ制度を拡充させるべき。
- 具体的かつ効果的な普及啓発の在り方を検討し、推進していくべき。
「第14次労働災害防止計画」
第1回検討会では今後転倒・腰痛の減少につなげる具体的な対策を議論していきます。
成果としては今夏をめどに中間報告としてまとめ、来年度から始まる「第14次労働災害防止計画」に反映させていく予定です。
その後、必要な制度改正やガイドラインの策定、周知など詳細な計画づくりに取り組んでいきます。
今後の計画内容が介護の事業者、職員の仕事にも影響が及んでいくと考えられます。
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