SDGsには17の大きな目標があり、それぞれに平均10個ずつくらい同じようなターゲットが存在し、合計で169個あるので169のターゲットと言われています。
今回は、農林水産省が推進している『みどりの食料システム戦略』に関する取り組み事例として人工知能(AI)やロボットなど先端技術を活用した農業について紹介します。
みどりの食料システム戦略
農林水産省が推進している『みどりの食料システム戦略』に関しては、このブログの『日本 事例 農水省 有機農法推進』でも詳しく紹介しています。
みどりの食料システム法について
令和4年4月22日に環境と調和のとれた食料システムの確立のための環境負荷低減事業活動の促進等に関する法律(みどりの食料システム法)が成立し、5月2日に公布され、7月1日に施行されました。 この法律は、環境と調和のとれた食料システムの確立に関する基本理念を定めるとともに、農林漁業に由来する環境への負荷の低減を図るために行う事業活動等に関する計画の認定制度を設けることにより、農林漁業及び食品産業の持続的な発展、環境への負荷の少ない健全な経済の発展等を図るものです。 |
脱炭素など環境調和型の農業への転換に向け、「みどりの食料システム法」が7月に施行されました。
人工知能(AI)やロボットなど先端技術を活用し、農薬や化学肥料の削減に向けた目標が掲げられています。
日本における有機農業の普及などは欧米と比較して遅れています。
これは高温多湿という日本の気候によるところも大きく影響しています。
夏の高温多湿により、多くの自然の恵みを享受していますが併せて雑草も多く発育することで農家の労働の負担は大きくなります。
上記の映像は日経新聞の記事によると、6月下旬、有機米を手掛ける生産農場グリーンで、田植えを終えた田んぼをカモ型のロボットがスイスイと泳いでいる様子です。
スタートアップの有機米デザイン(東京都小金井市)が開発し、雑草を抑制する「アイガモロボット」は、2022年は全国の農家に計210台を配備し、実証データを集めます。
田植え後のこの時期、雑草が生えないように圃場に水を張り、除草剤を散布するのが通常の米作りです。
除草の手間が3分の1
『みどりの食料システム戦略』で推進する農薬や化学肥料を使わない有機農業は生態系への悪影響が少ない半面、農家にとって労働の負担は重いものがあります。
除草剤を使わない水田は田植え直後から雑草が生え始め、人が「田押し車」などの機具で取り除き、除草の作業時間は5倍になるとのデータもあるそうです。
多くの農家が兼業で農家を行い就労年齢が高齢化し減少する中、機械化が進まない中、人力で有機農法割合を増やすことは現実的ではありません。
「アイガモロボット」の愛称は伝統的な「合いガモ農法」に由来します。
伝統的な「合いガモ農法」は、アイガモが害虫をついばむだけでなく、水かきで泥をかき混ぜて太陽光を遮り、雑草の発芽を防ぎます。
「アイガモロボット」もスクリューで泥を巻き上げて進み、雑草の発芽を抑制します。
除草の手間は平均で3分の1、田によっては2割以下に減ったデータもあるようです。
太陽電池で動力を賄い、コースはスマートフォンのアプリで設定できます。
開発した中村哲也・有機米デザイン取締役は元日産自動車のエンジニアです。
仲間と有機農業を手掛ける過程で除草の大変さを痛感し、ボランティアで開発を始め、東京農工大学と組み試作にこぎ着けた。
「ITや科学データに基づく農業は就農者らにとって魅力になる」と期待を寄せる。
23年から農機大手の井関農機が販売する。
同社は秋田県にかほ市、新潟市などと協定を結び、アイガモロボットを他の農機と組み合わせ「スマート農業」の中核に育てる考えだ。
日経新聞記事 参照
稲作における労働負担が重い作業はあぜ草の草刈りの作業です。
もちろんラウンドアップのような除草剤の環境への負荷は下がっていますが、除草剤の費用負担もかなりあります。
雑草の草刈りを怠ると、害虫による稲作への影響も少なくありません。
アイガモロボットのように自動で草刈りできるロボットが開発されれば、労働負荷が少なくなります。
画像で病虫害を診断
深層学習などAIによる画像診断技術が急速に進んでいます。
葉などの画像から即座に病虫害を診断できるようになってきています。
スマホアプリAI診断(日本農薬株式会社等)できるアプリも増えています。
診断結果をみて迅速な防疫につなげたり、発病する可能性が低ければ農薬の使用を控えたりすることも出来ます。
農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)は法政大学などと共同でトマト、キュウリ、ナスなど12品目で画像から病虫害を診断するシステムを開発しています。
情報プラットフォーム「農業データ連携基盤(WAGRI)」を通じて民間にも提供しています。
うどんこ病や青枯れ病など主要な病虫害に対応、作物ごとに数千~5万枚の画像を集めてAIに学ばせ、多くは9割以上の精度で判定することができます。
ほかにもイネの代表的な害虫であるイネウンカ類の発生や、温州みかんの糖度を予測するAIなども実用化しています。
有機農業の理解に課題
有機農法に関しては課題も多くあります。
一般的な慣行農業の耕作地に有機農業が点在する現状では、農業者コミュニティー内でも有機農業は理解を得られにくい現状もあります。
漫画「夏子の酒」では伝説の酒米を主人公が有機農業で作付けする時の地域コミュニティで起こる課題を分かりやすく紹介しています。
有機食品の市場規模は世界で1000億ドル(約13兆円)を超え、この10年で2倍近くに増えていますが、日本では1850億円(17年)、伸び率も40%程度にとどまっています。
有機が消費者に支持され生産が増える好循環が生まれるには、消費者の意識変化「値段の高くても有機農法の作物を買う」も必要です。
日本では、コスパを話題にすることが多く、物の値段をあげにく環境が現在の物価高で少しずつ変化してくれば、農産物にも変化が現れるかもしれません。
農薬使用量を半減
農薬使用量の削減は国際的な目標でもあります。
世界的な食料・農業戦略の課題について、以下は日経新聞の記事の抜粋です。
国連の持続可能な開発目標(SDGs)や地球温暖化防止のためのパリ協定などを受け、主要国は農業政策を大きく転換させた。
欧州連合(EU)は20年に策定した食料・農業戦略「ファームtoフォーク(農場から食卓まで)」で農薬使用量や1人当たり食品廃棄物を30年までに半減する目標を掲げた。
米バイデン政権もとくに脱炭素に力を入れる。
ロシアのウクライナ侵攻により穀物や肥料の安定調達も共通の課題だ。
ひるがえって日本では農業の「多面的機能」のひとつとして環境保全が言われながら、脱炭素や有機農業への転換は進まなかった。
農業で出る温暖化ガスは国内排出量の4%強(20年度)を占め、化学肥料の多くを占める窒素の排出量も1人当たりでは国際平均のほぼ2倍に達する。
状況を変えようと農水省が21年に打ち出したのが「みどりの食料システム戦略」だ。
50年までにCO2排出を実質ゼロ、農薬使用量を50%、
化学肥料を30%減らす目標を打ち出した。
とくに有機農業は50年までに100万ヘクタール、耕地面積に占める割合を25%まで増やす。
22年4月に関連法が国会で成立し、国全体で取り組む。
日経新聞記事 参照
世界状況が不安定で、物価高騰による経済の不安定さが増すなか、生活必需品はより安く買いたい消費者のニーズと逆行する形の取り組みですが、いつかはやらなければならない事でもあります。
小麦の輸入コストが上がる事が想定される中、まずは日本で古代から営なまれている稲作のイノベーションに期待したいものです。
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