このブログでは「介護役立情報」を紹介します。
転倒のリスクは、年齢を重ねるほど高まります。
今回は施設で発生する転倒リスクに関して利用者・家族への理解を深めるため行うことに関して紹介します。
転倒事故は全て施設側の過失でない事の事前説明
施設入所者又はデーサービスの利用者等の転倒事故が発生すると、施設の過失と捉える傾向があります。
転倒予防策をいくらしても、老年症候群で一定の確率で転倒は発生し、必ずしも全ての転倒が施設側の責任とはなりません。
転倒リスク・転倒予防の不確実性に関して利用者・家族へあらかじめ理解してもらう働きが必要です。
介護サービスの裁判事例
以下の判決事例は介護事故にかんする過失でよく取り上げられる事例です。
介護事業所においては、どの事業所においても可能性がある事例です。
この判例も踏まえ、事前に転倒リスクに関する合意形成を契約時に伝える必要性は理解出来ると思います。
(1) 施設系介護サービスの裁判事例
■福島地裁白河支部 平成15年6月3日判決 一部認容一部棄却 確定■ <老健>
[事件の概要] 介護保険制度がスタートして初めてケアプランが争点になった事例
介護老人保健施設に入所中の女性(95歳)が自室のポータブルトイレ中の排泄物を捨てるため汚物処理場に赴いた際、仕切りに足を引っかけて転倒、負傷した事故につき、施設経営法人の債務不履行及び土地工作物責任に基づく損害賠償責任が認められた事例。
[争点]
ポータブルトイレの清掃についての債務不履行責任、本件仕切りと土地工作物の設置・保存の瑕疵。
[結論]
介護計画やマニュアルの中にポータブルトイレの清掃を定時に行なう義務があったことと本件事故との相当因果関係から、債務不履行責任が問われる。
入所者の移動ないし施設利用に際して、仕切りの存在は転倒等の危険を生じさせるものであり、土地工作物の設置又は保存の瑕疵に該当し、損害賠償責任があると判決
(2) 在宅系介護サービスの裁判事例
■横浜地裁 平成17年3月22日判決 一部認容・一部棄却 確定■ <デイ>
[事件の概要] 説明責任の程度と内容
介護老人福祉施設でデイサービス(通所介護)を受けていた85歳の女性(要介護状態区分2)が、同施設内のトイレで転倒受傷した事故についてのリスクマネジメント。
デイサービスを利用していた女性が、午後3時頃送迎のバスを待って、ソファーで座っていたところ、念のためトイレを済まそうと前方にあった障碍者用トイレに向かった。
介護職員は障碍者用トイレの入り口までは歩行介助する。
利用者が「自分一人で大丈夫だから。」、「ここからはいいから。」と二度強く拒絶されたため、介護職員は持ち場に戻った。
職員は、利用者がトイレから出られたら歩行介助をしようと考えた。
その後、女性利用者が障碍者用トイレ内で転倒。右大腿骨頚部内側骨折と診断。
[争点]
介護者は、利用者から強く拒絶されたとしても、同行した障害者用トイレまで介助する義務の有無。法人側に求められる説明責任の程度と安全配慮義務違反。
「結論」
利用者が本件トイレの入り口から便器まで杖を使って歩行する場合、転倒する危険があることは十分予測し得るところであり…、利用者が拒絶したからといって直ちに一人で歩かせるのではなく、説得して利用者を便器まで歩くのを助ける義務があった。
介護拒絶の意思が示された場合であっても、介護の専門知識を有すべき介護義務者においては、「介護を受けない場合の危険性とその危険を回避するための介護の必要性とを専門的見地から意を尽くして繰り返し説明し、介護を受けるよう繰り返し説得すべきであり、それでもなお要介護者が真摯な介護拒絶の態度を示したというような場合でなければ、介護義務を免れることにはならない。」
「介護を受けない場合の危険性とその危険を回避するための介護の必要性を説明しておらず、介護をうけるように説得もしていないのであるから、歩行介護義務を免れる理由はない。」
対 策
2021年の介護保険制度改定で要介護の自立支援と重度化防止が重点テーマとなり、LIFEなどの運用が始まりました。
介護事業所それらの取り組むを行うことは、 施設入所者又はデーサービスの利用者等の活動が向上することで、必然的に転倒のリスクは上がっていきます。
要介護者の転倒を完全に防ぐことは不可能であることは、医療・介護関係者にとっては常識ですが、いざ転倒事故が起こると上記事例のような責任追及が後を絶ちません。
こうした状況が続く中、日本老年医学会と全国老人保健施設協会は、「介護施設内での転倒に関するステートメント」を発表しまた。
介護施設内での転倒に関する4つのステートメントを活用し、転倒後のトラブルを防ぐため、入所者・家族等に不確実性の共有を利用前にする必要があります。
見守り機器等を活用する場合は、転倒予防ではなく、発見するためと認識し必要であれば事前に説明を行います。
以下がその内容の要点です。
介護施設内での転倒に関する4つのステートメント」
<ステートメント1>【転倒すべてが過失による事故ではない】
転倒リスクが高い入所者については、転倒予防策を実施していても、一定の確率で転倒が発生する。
転倒の結果として骨折や外傷が生じたとしても、必ずしも医療・介護現場の過失による事故と位置付けられない。
<ステートメント2>【ケアやリハビリテーションは原則として継続する】
入所者の生活機能を維持・改善するためのケアやリハビリテーションは、それに伴って活動性が高まることで転倒リスクを高める可能性もある。
しかし、多くの場合は生活機能維持・改善によって生活の質の維持・向上が期待されることから原則として継続する必要がある。
<ステートメント3>【転倒についてあらかじめ入所者・家族の理解を得る】
転倒は老年症候群の一つであるということを、あらかじめ施設の職員と入所者やその家族などの関係者の間で共有することが望ましい。
<ステートメント4>【転倒予防策と発生時対策を講じ、その定期的な見直しを図る】
施設は、転倒予防策に加えて転倒発生時の適切な対応手順を整備し職員に周知するとともに、入所者やその家族などの関係者にあらかじめ説明するべきである。
また、現段階で介護施設において推奨される対策として標準的なものはないが、科学的エビデンスや技術は進歩を続けており、施設における対策や手順を定期的に見直し、転倒防止に努める必要がある。
まとめ
転倒リスクの説明は事前に行っていたとしても、いざ発生すると、施設の過失責任を訴える事例は後を絶ちません。
交通事故であれば保険加入していれば、特約で保険会社が事故対応を代行してくれますが、介護事故に関しては、施設管理者や生活相談員等が対応することになります。
家族への事前説明には想定できる事故を書面で用意し、その転倒リスクが防げない可能性があることも記載し、合意を取ることをお勧めします。
リスク説明事例
- サービス利用中の健康状態悪化やADL低下に伴う転倒の危険性
- 入所による環境変化よる転倒の危険性
- ADL維持のための機能訓練による転倒リスク
- 原則身体拘束を行わないことによるリスク
- 転倒予防策を講じても一定の確率で転倒が発生するリスク
- 転倒に伴う生活機能低下や入院・生命に影響を及ぶ可能性のリスク
- 転倒発生時と対応手順等
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